★★ 女教師・美咲 「罠」★★-1
「先生、おはようございます。」
「おはよう。」
大勢の生徒から、声がかかる。
3月某日。今日は、この学校の終業式の日だ。
「月日が流れるのは、早いものだわ・・・。」
美咲が、この私立名門男子校の
国語教諭として着任して、1年余り。
新卒で採用された美咲は、初めて学年末を迎えた。
誰もが認める美貌と、
モデル並みのスタイルも兼ね備えた美咲は、
瞬く間に、この学校の「マドンナ」となった。
そのルックスは、ひとたび街を歩けば、
プロダクションのスカウトの声が、
ひっきりなしにかかるほどだ。
派手な格好を、しているわけではない。
むしろ、目立つのが嫌で、薄化粧で、
地味な服を着ているくらいだ。
それなのに、声がかかるのは、
どことなく華があり、上品な美しさが、
独特のオーラを放っているからだろう。
人気があるのは、ルックスがいいだけでない。
明るくて優しい性格であることも、大きな要因だ。
美咲がいるだけで、
その場が明るくなり、和んだ雰囲気になるのだ。
「美咲先生!」
後ろから、声をかけられ、振り向いた先にいたのは、
卒業を迎える3年生で、水泳部の前部長の佐藤だった。
「この許可書に、サインをお願いしたいのですが・・・。」
「施設・延長使用許可」
と書かれた用紙には、
「施設名:室内プール、使用時間:17:00まで」
と記入されていた。
終業式のみの今日は、午前中に行事を終え、
午後は4時まで、各課外クラブごとに、
送別会が行われる予定のはずだ。
県内有数の進学校でもあるこの高校は、
クラブ活動にも力を入れており、
全生徒が、いずれかのクラブに加入する
ことになっている。
「送別会は、4時で終わりでしょ・・・?」
「水泳部3年生は、送別会終了後、
最期にひと泳ぎするのが、恒例なんです。」
美咲は着任早々、水泳部の顧問を
半ば強制的に、押し付けられた。
いきなり顧問になれといわれても、
何をすればいいのか分からず、固辞したのだが、
全生徒加入のクラブ活動状況では、
どの道、どこかクラブの顧問にならざるを得ない。
それで、しぶしぶ、定年退職した
前顧問の後を受けることとなったのだ。