『真昼の映画館』-7
「付き合ってあげる」
「ほ、本当ですか…?」
「田中くんがあたしを思ってくれてるほどあたしはまだ田中くんのこと好きになってないけど…好きになりそうな予感はするし」
菜々子はいたずらっぼく微笑むと、髪に手をやった。
「でも付き合うにあたってひとつお願いがあるの」
「な、何ですか?俺なんでもします!」
「『小谷さん』って呼ぶのやめてくれる?」
「えっ?」
「名前で呼んで欲しいな」
「…菜々子…さん?」
「はい」
啓一の呼びかけに答えて菜々子が片手を小さく上げた。
「これからもよろしくね。田中くん」
「俺も名前で呼んで欲しいかも…」
「だめー」
「えっどうしてですか?」
「だって田中くんは田中くんって感じだもん」
「何ですかそれ…」
菜々子は啓一のがっかりした表情をみてくすくす笑った。
(まぁ…いっか)
菜々子の笑顔を見ながら啓一は体がじんわりと幸せで満たされて来るのを感じていた。