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多分、救いのない話。
【家族 その他小説】

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多分、救いのない話。-6--3

すぐに目的の部屋に案内されるかと思ったら、途中で寄り道があった。
 案内された部屋に入ると、反応に困った。
「どうしたの?」
「……凄い部屋ですね」
 壁は扉のある壁以外の三面、天井にまであるラックで見えない。一角が申し訳程度に服を入れる所となっているが、他は全てCDやレコード、DVDやLD、水瀬にはよくわからないが多分他の規格もあり、古い映画のパンフレットなどもある。それら全てが歌手や監督の五十音順にならんでおり、更に作品も五十音順に並べてある。個人でここまで集めたなぁと感心を通り越して放心してしまった。
「あの子、映画が好きなのよね」
 ここまでくるとある種の偏執的なものが垣間見える。よく見たら、服はどうも映画の衣装らしい。母親の子供に対する感情を考えると、むしろ子供もそうなるのかもと考えてしまい、考えてしまった自分が不謹慎であることに気付き戒める。というか、十四歳の女の子がこんな部屋でいいのだろうか。あ、また考えてしまった。
「お友達と遊ぶ部屋とか、寝室はまた別にあるのだけれど」
「あ、ここがメグちゃんの部屋じゃないんですね」
 案内すると言われた部屋が慈愛の部屋だと無条件に思い込んでいた。
 ふっ、と。彼女の方を見る。
「…………」
 何だろう。普段から読み取りにくい表情が、強張っている気がする。
「神栖さん?」
「奈津美さんはこの部屋、何も思わない?」
「え? えーと……」
 とりあえず、無難に答えを返す。
「凄いコレクションですね」
「…………」
 僅かだが、失望と――侮蔑を感じた。相手は隠すつもりもないらしく、遠慮なく声にも乗せる。
「そう。奈津美さんは知らないの」
 何を知らないと言うのか。
 無言の疑問に答えるつもりもないらしく、さっさと廊下にでる。別の部屋に行くつもりらしい。
 この部屋に案内された意味は、再会し、断罪される時まで、水瀬は理解らない。理解出来ないまま、廊下を歩む。
 寄り道の意味は分からなかったが、とりあえずこの家は部屋が広いというのは分かった。
 次に案内された部屋こそが慈愛の寝室らしい。本人の許可なくと迷う暇もなく、母親の権限で子供の部屋は開かれる。
「クローゼットの中なんだけど」
 水瀬は仲が良くてもこういったプライバシーに関しては厳しい方なので、勝手に私室に入り持ち物を漁る行為に罪悪感を感じていた。しかし、今は非常事態だと自身を納得させる。それが自己欺瞞だと分かる程度には、水瀬は内省的だった。
「……やっぱりないのよね」
 分かっているんだけど、と自嘲の笑みが浮かぶ。水瀬も教師歴は決して短くない。
「大きなリュックがないですね」
 宿泊行事で何度も見かけた、慈愛の大きなリュックがなかった。よく見ると、空のハンガーがまとめて掛けてある。
「家出ですかね?」
「自然に考えるとね」
 彼女の声には、感情がなかった。
「……やはり警察には知らせた方が」
「意味がないわ」
 未成年の家出人捜索に、警察は本腰を入れたりはしない。彼女はそう言う。
「かもしれませんが、知らせることに意味があるんです」
 若干語気を強めるが、相手の反応は変わらない。眼も合わせようとしなかった。
「私達にとっては意味がないの」
「神栖さん……!」
 肩ごと顔を無理矢理こちらを向け、眼の奥の感情を覗く。

 ――水瀬には、無理だった。


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