ストーカーなはずがない-1
初めて彼女を見たとき、胸が締め付けられるような、そんな不思議な気持ちになった。
姉に尋ねてみれば「それは一目惚れ」だと言われ、納得した。
俺は、彼女に恋をした。
彼女と同じクラスになったとき、俺の心は跳ね上がった。
でも彼女に話しかけるのが怖くて、毎日教室の隅でひっそりとしていた。
彼女が友人に好きなタイプを話していたのを盗み聞きして、それに近付こうと努力した。
彼女について色々知りたくなって、細かいことまで調べ上げた。だから、彼女の家にも行けるし、困ったときにするクセも知っている。
彼女が俺を好きになってくれるように努力した。
姉には「ストーカーみたい」と言われたが、納得がいかなかった。
好きな人を知るのは当然のことなんじゃないのか?
そんな日々が続いていたが、変化は突然おとずれた。
「──あれっ、姉ちゃん出掛けるの?」
いつも昼頃起きている姉が朝早くに支度をしていたので、不思議に思って尋ねると、姉は照れくさそうに笑って頷いた。
「今日の夜、CREATORのライブがあるの。早く並ばないといい席とれないから」
「ふーん」
はっきり言って、俺は姉のアイドル好きに嫌悪感を持っていた。
決して結ばれるわけではないのに、アイドルのためだと自身を着飾り毎回ライブに行く。
同じ趣味を持つ『オタ仲間』がいるらしいが、そんなの、気持ち悪い集団だ。
「気をつけて、ね」
「うん?…うん。でも、今日は友達と行くから」
「友達?」
「こないだネットで知り合った」
「あぁ」
姉にオタ仲間で特に親しい存在ができたことは聞いていたが、初めて会うのだから余計危なくないか?
「大丈夫だって、太一は心配性なんだから」
表情に出ていたみたいだ、姉は困ったような笑顔をしていた。
「うん…」
「ちゃんと終わったら連絡するね」
そう言って、姉は出て行った。
この時はまだ、知らなかった。
この日が、俺の運命を変えることに。