ストーカーなはずがない-5
「──優里さん」
教室に入るとすぐに鞄も置かずに彼女に近付き、その腕を掴んだ。
「…何よ。離して」
彼女は俺を睨みつける。
当たり前だ。昨日の今日でこんなことをしてきたら、俺だってそうする。
でも、俺はその腕を離さない。
「優里さん、話があるんだ」
「だから何よ?」
「俺、俺、昨日のこと謝ろうと思って」
「いいってもう。てか、こんな場所でやめて」
「やだ。今言わないと意味ないんだ」
教室内はざわつく。みんなが、俺と彼女を見ている。彼女の友達に限っては心配そうな顔で見つめていた。
俺だって恥ずかしい。
でも、今言わないと、意味ないんだ。
俺が一歩踏み出すためにも。
「俺、優里さんが大好き」
「えっ、あっ…」
明らかに動揺している彼女をよそに、俺は話を続ける。
「本当だよ、俺、入学したときから好きだったんだ。優里さんのことなら何でも知ってる」
多分、君がアイドルのことを何でも知ってるように、
「俺は、君のオタクなんだ、きっと」
「…それただのストーカーじゃん!!」
鼓膜に響く乾いた音。
思いっきり叩かれた頬。
でも、この痛みは嬉しい痛みだ。
だから、まだ、この腕は離していない。
「いい加減離してよストーカー!!あんた、人のこと言えないじゃん!!」
「じゃあ優里さんもストーカー?」
そう言ってニヤリと笑うと、彼女は怒りを含んだ目で俺を見てきた。
「あんたなんか、大嫌い」
「どーぞ。それでも俺は、君が好きだ」
クラスが大騒ぎになってしまったけど構わない。
これは俺の決意表明。
君がアイドルを追い続けるように、俺も君を追い続ける。
さぁ、オタクの闘いはこれからだ。