夏の終わりにA-1
夕暮れ近く、私は篠原のクルマに乗っていた。
「ここを真っ直ぐよね?」
「…はい」
10分後、クルマは自宅近くに停車した。
「…あの…ありがとうございました」
礼を言いクルマを降りる私の背後から、篠原の声が掛かる。
「いいわね。明日もよ…」
そう言い残すと、クルマはゆっくりとその場を離れていった。
「…ただいま」
私は力無く玄関ドアーを開く。
「ずいぶん遅かったじゃない。いったいどうしたの?」
妹の愛理が心配気な表情で出迎えた。
「…あ、ああ、上級生に説教されてた。正座させられて…」
適当なことを言ってごまかす私。
「へぇ、中学になると上下関係とか大変なんだね」
妹は何の疑いも見せない。もし、本当の事を知ったら彼女はどう思うだろうか。
「…風呂入ってくる」
私は愛理との会話を遮りバスルームへと向かった。
(…あの目……)
湯船に浸かりながら先刻までの事を思い浮かべる。
屈辱的な行為の中あの目に見つめられ、私は自分の中で拒もうとする気持ちが消え去るのを覚えた。
(…どんどんおかしくなっていく。やっぱりオレは変態なんだ…)
〈本当に止めちゃって良いの?〉
篠原の妖しげに光る瞳に見据えられた時、ただ黙って頷いた。
先ほど受けた快感を、また明日も味わいたい思いから。
「ショウちゃん、今日は静かだね」
皆より遅れた夕食。摂っている最中、愛理はテーブルの対面に座って私に話掛ける。
テーブルに前のめりになって身体を伏せた体勢は、キャミソールの間から胸元が覗いている。
「何だか疲れてさ。喋べるのも億劫なんだ…」
その後、黙々と食事をたいらげると私は席を立った。