夏の終わりにA-9
その時、再び電話が鳴った。
私は〈ボクが出るから〉と言って、電話口で受話器を掴んだ。
「…はい。砧ですが」
受話器のむこうから聞こえる声に、私は息を呑んだ。
「…アナタ…正吾君よね」
その声は、まさしく篠原だった。
「…ど、どうやって調べたんです?」
その時、私の顔は引きつっていただろう。尋ねる声が震えていたのだ。
「そんな方法、いくらでも有るわ。それよりも身体は大丈夫なの?」
「…は、はい。特に問題ないみたいで…」
「じゃあ、明日から練習に出れるのね?」
「いえ…明日は病院で検査を受けろって…それで休んでろって」
私の返答に篠原はしばらく黙っていたが、やがて何か思いついたのか、再び口を開いた。
「明日、診察を終えたら私の所に来なさい」
「来いって…」
「来れば分かるわ…」
篠原はそれだけ言うと電話を切った。
(…来ればって…今、以上に何かされるんじゃ…)
私は不安と期待の入り交じった複雑な気持ちだった。
…「夏の終わりに」A完…