夏、そして夏。side F-1
「伴ちゃんっ?!」
伴ちゃんが訪ねてきたのは大会3日前のことだった。
「お前探したよ〜。ここにいたんだな。」
最後に会ったのは、オレが引っ越す前だから、6年前か。
西荻 風太‐にしおぎふうた‐水泳部所属。種目、バタフライ。
「いつのまにかバタフライ泳者になってるし…」
「フリーだといっぱい壁があってね。」
オレは大斗を見ながら言った。
昔は自由形専門だった。しかし、上には上がいて、高校に入ってからはバタフライ1本に絞ってやっていた。
「オレ今な、高校でもコーチしてんだ。」
「うん、知ってるよ。…麻んとこでしょ。去年のインハイで伴ちゃん見たもん。」
伴ちゃんは驚いた顔をしている。
「えっ、ぇえ〜っ!だってお前、去年の大会出てた?」
去年、オレはケガをして大会に出られなかった。しかし、他の部員についていき、麻のレースを観客席から見ていたのだ。そのときに、伴ちゃんが来ているのに気がついた。
「だったら、なんで会いに来なかったんだよ!」
「だって、約束したから。麻と。」
「――やっぱり、本当だったのか。あいつが、麻が勝手に思い込んでるだけなんじゃないかって…」
オレは首を横に振った。
「オレ、ずーっと全国で待ってたんだよ。
…今年はイケそうなの?」
「ああ。」
伴ちゃんは微笑んで、そう答えた。
6年前12歳のとき、オレは麻に言ったんだ。
「麻が金メダルを取ったら会ってやる」「全国で待ってる」と。
離れ離れになって、オレは麻に会いたい一心で全国へ進んできた。
でも、待っても待っても麻に会うことが出来なかった。夏は、過ぎていくだけだった――。
きっと麻はあの約束なんて忘れてしまったんだろう
そう思いながらも、プログラムに名前が載っていないと分かっていながらも、もしかしたら…そう思って毎年、女子のレースを見に行っていた。