がんばれ!松本くん-3
「いた!」
俺の走っている前をからかうように犬が走っていく。
「待つんだあ!」
犬に向かって飛び掛かると急に道から人影が現れた。
「うわああああ!」
「ぎゃああああ!」
小太りのオバさんに向かって俺は突っ込んでいった。恐る恐る目を開けると、何かネバネバした物が体中にくっついている。
「あんた、どうしてくれるんだい!あたしの大好物の納豆がおじゃんになっちゃったじゃないか」
よく見ると道路一面に納豆が飛び散っている。どうやら俺は頭から納豆を被ってしまったらしい。
「オバさん悪いけど、今それどころじゃないんだ」
「じゃあどういう所なんだい!」
怒り狂うオバさんを余所に、俺は犬の姿を探し出す。この住宅街のどこかに潜んでいる事は間違いない。俺はよろめきながら前方に目を凝らす。 前からOL風の若い女の人が歩いてくる。俺は遠慮がちにその女の人に近づいた。
「あの、すみません」
女の人は俺を見つけた途端、目を剥いて叫んだ。
「きゃああああ!納豆フェチ!」
最初は何を言ってるのかよく分からなかったが、さっきオバさんに納豆をぶっかけられたのを思い出して理解した。
「違うんです、これには訳が」
「おまわりさん、こっちです!」
あまり前が見えないせいで状況が把握できないが、どうやら弁解の余地もないまま女の人は警察を呼んでいるようだ。
「お前か!道端をうろついている変態納豆は」
警官は警棒を持って俺に詰め寄ってくる。
「違います!俺はただこの人に犬の行方を聞こうとしただけで」
「なに?貴様犬フェチでもあるのか!」
話がどんどんこんがらがっていく。だいたい何で皆『フェチ』に結び付けようとするんだ。
「そいつは納豆泥棒だよ。あたしの納豆に突っ込んできたんだ」
さっきぶつかった小太りのオバさんが怒声を上げた。
「こいつ……ちょっと署まで来なさい」
何でこんな展開になったのか。俺はなんにもしちゃいない。俺は制服に付いた納豆を警官に向かって投げつけた。皆が目を伏せている間に、俺はその場を逃げ去った。