がんばれ!松本くん-2
小さな町の一角にあるケーキ屋は、バイトの女の子二人で切り盛りしていた。ショーケースに並べられたケーキはきらきらと輝いて、どれも美味しそうに見える。しかし中澤さんがモンブランを好きだったとは、今まで知らなかった。
俺は中澤さんの事だけを思い浮かべながら順番を待った。ふと耳を傾けると俺の前にいる人は皆モンブランを買っている。ここのモンブランはそんなに人気なのか。
「あ!あの犬!」
店員の悲鳴と同時に真っ白な犬がカウンターの中から走り出てきた。捕まえようとする店員の手から上手く身をかわし、呆気なく店の外へと逃げてしまった。
「またあの犬か……皆様お騒がせして申し訳ありません。次のお客様どうぞ」
店員が俺に目配せしたので、心踊らせながら店員に言った。
「モンブラン一つ」
すると店員は途端に残念な表情を浮かべる。
「申し訳ありません。モンブランはたった今……」
「え?でもさっきまであったじゃないですか」
「ええ。実は、先程逃げた犬に食べられてしまいまして……今日はあれで最後だったもので」
俺は愕然とした。犬に食われた?なんてお粗末なんだ。俺の今までの気持ちを、こんな形で終わらされるなんて。気付けば俺の目からは涙が流れていた。
「あの、大丈夫ですか?」
店員は慌てふためいて俺にティッシュを差し出す。モンブランごときでそんなに泣かなくてもいいじゃないか。この店員はそんな風に思ってるに違いない。
「――けます」
「え?」
「犬を追い掛けます」
そう言って店員にティッシュを突き返し犬の背中を追い掛けた。
犬を捕まえてどうするのか、胃の中に入ってしまったモンブランをどうするのか、そしてそれを彼女に何て言って渡すのか。問題は山積みされてるが、俺にはもう犬しか見えていない。