誰が為ぞ-6
私は誰のために此処にいるのか。
不意にあの時の言葉が脳裏を掠める。
大きなボストンバックに荷物を積めながら、父の遺影を見つめた。
結局父は助からなかった。あの後私はすぐに助けを呼んで、駆けつけてくれた医者は私をずっと慰めてくれた。
「どちらにせよこの村の医療設備では助からなかった、隣の市に向かおうにもあの雪ではそれすら無理だった。だから君は悪くない、君の所為ではないんだよ」
そう医者は言い続けた。私の所為だ、と言い張る私にずっと、ずっと。
私は村を出ることにした。
母の所へ向かうわけではない、一人で父が残してくれた少しの遺産でやっていこうと思う。
教師になりたい。
医者にそう宣言すると、少しスタートは遅れたけれどまだ間に合うよ、とぽんと背中を押してくれた。
父が動けなくなって、廃校になったこの村の学校に再び暖かい灯を灯したい。それは誰の為でもない。
「お父さん、私は私の為に此処に帰ってくるね」
父の遺影に手を合わせて、約束をした。
外に出る。
山雪を溶かす日差しが眩しかった。
頬を掠める風が温もりを含んでいた。
春はもう近いのかもしれない。
end