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誰が為ぞ
【家族 その他小説】

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誰が為ぞ-4

『もう!そんな風に言わないで。それよりあなたまだお父さんの世話していたのね』

 この言葉に思わず眉を顰めた。無責任とはこの事、自分が言い出した癖に、それは敢えて口には出さなかった。

『ねぇあなたも若いんだしそんな村にいるのは退屈でしょう?こっち来ない?生活ならお母さんが援助するわよ』

「お父さん独りで放り出して?冗談もだいがいにしてよ!」

 思わず語尾が強まる。

『もういいじゃない、あなたも充分頑張ったわよ。ほら施設とかあるでしょう?それにね、ずっと言えなかったけど実はあの人貴方の本当のお父さんじゃないのよ、だか

ブツッ

 不意に電話が切れた。
 思わず手に受話器を持っているか、電話線が抜かれていないかを確かめた。
 二つとも問題はなく、私が受話器を置いた訳でも、電話線を引っこ抜いた訳でもなかった。

 びゅうっと風と雪が舞い上がる音がする。
 きっと大本の線がやられてしまったのだと理解する頃には、頭の中は母の言葉が埋め尽くしていた。

 心臓の鼓動が煩い、体中が熱い、けれど頭の中だけが冷ややかに現状を整理しようとしていた。


 母はなんと言った?
 本当の父ではない?
 なら私は一体何のために?

 ざわめき出す思考の波に飲み込まれて、カタカタと震え出す手を見つめる事しか出来なかった。
 これは何の震えなのだろう?
 怒り?悲しみ?憎しみ?
 結局答えは出なかった。

 答えを出す前に、父の絞り出すような呻き声が聞こえたからだ。

「……お父さん?」

 部屋の奥に目をやる。父は傍目でも分かる程に大量の汗をかいていた。
 虚ろな瞳、全身の痙攣、決して声を発しなかった父の苦しそうな声。

 尋常でない苦しみ方は、医療に理解のない私にだって分かった。父はこのままだと危ないのだと。


 医者の文字が頭に浮かんで電話に飛びつくも、番号を押しても受話器から音がなることはなかった。

「そっか……さっき切れたんだった」

 ワタシハダレノタメニココニイル?

 不意にその言葉が脳裏をよぎった。背筋がぞくりとしたのは寒さの所為だと言い聞かせて、私は連絡を取るために外へと飛び出す。視界を滲ませる程の雪が邪魔をするけど私は構うことなく歩を前に進めた。
 村唯一の診療所にはずっとお世話になっている医者がいる、あそこならきっと大丈夫。私はずっとそう言い聞かせた。

 耳には風の音しか聞こえない筈なのに、また母の声が聞こえた気がした。


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