七夕には愛を囁いて-4
「……終わった?」
あたしの言い訳に苦笑を交えたよっちゃんが、降りしきる雨の外を指差し、買い物しよう、と笑う。
「よっちゃん」
外灯がフロントガラスから真っすぐ入り、ここだけスポットライトを浴びたように明るい。
「これから、さあ」
「ああ。これから泊まるならモーテルかな。それか旅館でも泊まるか?」
何て事ない顔でサラっと言うから、あたしの顔は段々と赤らんでいく。
気付かれたくなくて。冷静な自分を崩したくなくて。
勢いよく開けたドア。一歩踏み出すと雨粒が体に染みるけど、あたしはよっちゃんを置いて如月に走って向かう。
「照れてる?とか」
ぱしゃんぱしゃん、と水の撥ねる足音を響かせ、小走りで後ろから近づかれてしまう。結局一緒に如月に入るとクーラーの冷たさにぶるりと震えた。
「下着とか車内で食べるものとか買おうぜ」
雨粒を荒く払ったよっちゃんは、カゴを手にして当たり前の様に左脇に並ぶ。素っ気なく店内を練り歩く様子に、よっちゃんはクスクス笑っている。
「笑うなっ」
「いやいや、お前も結構可愛いとこあるじゃん」
馬鹿にして。ぷぅと膨らむ頬。よっちゃんは見向きもしない。
「やっぱお茶かな。栄養ドリンクも……ってこれは恥ずかしいな」
よっちゃんの下着が入ったカゴにドリンクやお菓子、パンやちょっとした生活雑貨をぽいぽいと入れていく。
あたしも『急なお泊りにはこれ!』なんてスキンケアセットを手にして、まさか自分が使うとは、と赤くなりながらカゴへと入れた。
「夕飯はどうする?弁当買ってくか、どっかで食うか?」
レジに向かいながら惣菜コーナーを覗く。まだ19時。品揃えは良い。
「今日は土曜だからファミレスこんでるよね」
んー、と唐揚げや天麩羅を眺めながら歩く。
「買ってくか。国道沿いの所にでも泊まろうぜ」
国道沿い、のラブホテル。
顔がカッと熱くなる。どっちにしろ、する、んだから場所は二の次だったけど、あからさまな場所に行くのは恥ずかしい。
あたし、生まれて初めて行くし。
「どうせなら呑もうぜ。俺ビールな。お前は?」
レジ目前、アルコールのコーナー。よっちゃんはザルだから、普通に500ミリ缶を二本も買う。それでも足りないって顔で。
あたしは弱いから甘いカクテルにしよう。カラフルな缶を眺め、どれにしようか指先が迷う。
ジントニック、スクリュードライバー、カシスソーダ、ピーチフィズ、ソルティードック、ダイキリ……よっちゃんが呆れ顔で、早くしろよ、とせかす。全部買えばいいじゃん、なんて無責任なことも言うし。
「三本ぐらいにしないと明日起きれないし」
そう呟くと、目を丸くしてよっちゃんが驚く。
「350で?三本?弱すぎじゃね?」
心底驚いた顔にあたしのほうが驚く。そういえば二人での飲みに行ったことが無かった。幼なじみなのに知らないことも結構あるんだ、としみじみ思う。
例えば今、カゴの中にあるコロッケ。あたしはジャガ芋の甘い味が好きで、よっちゃんは肉の多いしょっぱいのが好きだ。コロッケを二人で食べることはあっても、ここまで細かい好みの違いがあったとは初めて知った。
「意外と知らないもんだね。幼なじみって言ったって」
「まあそんなもんだろ。ほら次だ」
結局、ピーチフィズとソルティードックとダイキリを選んでカゴに入れ、二人で一つのカゴを眺めながらレジに列ぶ。