SLOW START ]〜海原悠樹〜-5
「ユウキくん?!」
名前を呼ばれ思わず振り返ると携帯を握り締め、目を丸くしているあの彼女がいた。
すぐメールが来る。
…まさか…
立ち上がり今起こった奇跡にどうしようか一瞬悩んだ。
俺は意を決して、初めましてと彼女に話し掛けた。
本当に心臓が飛び出るかと思った。
言葉を交わしやっと気がぬけた。
俺は彼女に初めて会った振りをした。
ずっと気になってた人…
その人が晶ちゃんだったなんて言えなかったから。
そして初めて彼女の笑顔を見た。
…あぁこの子だ…
駆け引きも何もなく、ただ驚き嬉しそうに笑う彼女がとても愛しいと気付いてしまった。
他の女と違う、気になって目で追ってしまう理由がやっとわかった。
俺は彼女…晶ちゃんに惹かれていた。
なぜかは分からない。
上手くいくかも分からない。
ただ彼女なら信じてみよう、大事にしよう。
そう思えた。
ゆっくり進んで行こうとしたはずが、少し焦ってしまう。
電話の男…
彼女は何も言わない。知らないのか…
電話の男は明らかに俺に敵意を持っていた。
こいつは譲らないと言われたように感じた。
ただ俺もそんな事で晶は譲らない。譲れない。
そして今日一日、彼女と過ごしとても満たされた気分だった。
帰りは家へ送り届ける事にした。
本当はこのまま連れて帰りたかったが自分の欲望を抑え、アパートの前に着いた。