SLOW START ]〜海原悠樹〜-4
仕事にも慣れ、余裕も出てきた頃に彼女を初めて見かけた。
取引先の会社で契約更新を済ませ、戻ろうとしたとき怒鳴り声がしてその方向を見た。
なにやらこの会社と問題を起こし謝罪に来たらしい。
先輩社員だろう男の後ろを一生懸命ついて回り怒鳴られながらもペコペコ頭を下げ必死に謝り続ける彼女。
親鳥の後ろをついていくヒヨコ…に見え、つい笑ってしまった。
近くにでも勤めているのか、よくコンビニでもすれ違うようになった。
特に可愛いとか美人ではないのに、見かけると目で追ってしまう。
よく同じ公園で昼休みを過ごしてみたりしたが、特に声をかけたりもしない。
そんなある日、公園で昼飯を食べている彼女を見つけた。
隣に鳩が一匹黙ってとまっていた。
その光景が気になり、出来るだけ近くに座ると話し声が聞こえる。
「はぁ〜あ…遅刻であんなに怒んなくていいよね。先輩のハゲ…野球バカ…ねぇ鳩…ブツブツ…」
思わず吹き出しそうになるのを堪えた。
…鳩に愚痴ってる…しかもスッピンだ。眉毛がねぇ…てか鳩も黙って聞いてる?!…
今まで俺の周りにいた着飾った嘘だらけの女とは何か違う…未知の存在として彼女は俺の中に入ってきた。
それから見かける度に話しかけてみようと試みたが、なぜか出来なかった。
いつの間にか女が怖くなっていた。
そんなとき、数少ない純粋な女友達から晶という娘を紹介された。
正直乗り気ではなかったがリハビリがてらメールだけしてみる事にした。
当たり障りのないメールのやり取り。
…ちょっと面白い子だなぁ
意外に気負わず話せた。
いつの間にか公園で昼休みを過ごすのが癖になっていたので、その日も公園で昼飯にした。
メールが来る。
返す。
来る。
返す。
来る。
返す。
尋問のようなメールを数回繰り返した時だった。