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ウソ
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ウソ×C-7

「ごめん、松田」
声を出すと泣いてるのがバレるから、無言で首を横に振る。
「お前はさ、ただの同僚だったんだ。それ以上でもそれ以下でもない、会えば話す程度の」
言わなくてもいい、分かってる。あたしだってそうだったもん。
「でも駄目なんだ、あの日から。ずっとお前の事ばっか」
「…?」
「バカが付くお人好しで俺なんかの芝居にコロッと騙されて泣いたり怒ったりしてんの見て、自分でもびっくりするくらい簡単に松田を好きになった」
「嘘…わっ」
いつの間に前にいたのか、上げかけた頭を小松が無理矢理下げた。
「信じなくてもいいよ。独り言だと思って寝てろ」
「…」
顔を見るな、と言ってるように聞こえた。
「隙だらけの女が半裸で寝てんのに何もできなかった。すげぇドキドキしちゃってんの、童貞でもあるまいし」
自虐的な笑いが聞こえる。
それをごまかすみたいにあたしの頭をクシャクシャと撫でた。
「睦月にそう言ったら本当かって何っ回も確認されて、俺って相当信用ないんだな」
…さっき言い掛けた言葉、『俺は』の後に続くのはこれかな。
睦月、本当に心配してくれてたんだ。
良かった。
これで睦月と友達でいられる…。
「なぁ、松田」
「何?」
「俺、あの日からお前に一回も嘘ついてねぇよ」
「…」
「一緒に寝た事を忘れないって言ったのも、お前を好きだって言ったのも」
頭から手が放れたから、そろそろと顔を上げた。
そこにいる小松は多分本物の小松。
顔を少し赤くして、それでもまっすぐあたしを見てる。
きっと嘘じゃ、こんな顔はできない。
「信用できる?」
「…分かんない」
「だよなー、また嘘かもしんねぇもんな。だったらどうする?俺刺されたりし、て…」
両腕を伸ばして小松の首を引き寄せた。
「ま…」
「そしたら、死ぬまで嘘つきでいて」



「嘘でもいいからヤった事にしとかないと、お前は俺の事気にしてくれなかっただろ」
新しい布団の中で、小松は話してくれた。
そうかも。
目の前の嘘つき野郎の最低な嘘に、こっそり感謝した。
「睦月には連絡したか?」
「うん、メールした」
「そっか」
「うん」
明日はちゃんと会社に行こう。睦月に謝って、お礼を言って、それで…
友達は友達だった。
嘘から始まった恋は、嘘じゃなくなった。
ただの同僚は恋人になった。
世の中は嘘つきだらけ。
おかげであたしは幸せだ。





『♪♪♪♪』
あ、松田からメール。
『小松と上手くいったよ!睦月のおかげ。ありがとう、大好き!!』
「…今日休んでごめん、明日はちゃんと仕事します…」
後半の文章を音読して、すぐに削除した。
人の男寝取ったくせに、何がありがとうよ。
小松を選んだのは失敗だったなぁ、まさか両思いになるなんて…。何が楽しくてキューピッドの真似事なんかしなきゃいけないのよ。
「ふー…」
まぁ、いいや。
松田も悩んだみたいだし、小松が主任殴ってくれたし、ちょっとは気が済んだ。
明日からまた友達ごっこしてやるか。
あたし、嘘は得意だから―


おわり


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