ウソ×C-2
「不法侵入」
「…だな」
開き直ってるのか、全く悪びれる様子が無い。
「帰ってよ」
「やだ」
「帰れ!」
「やだっつってんだろ」
ムカつく!何こいつ!!
もしかしてもう昨日の事忘れたわけ?
そっちがそうならこっちは無視だ。早速買ってきた寝具を袋から出す作業にかかった。
「なぁ、ベッドどこ行った?」
「捨てた」
「は!?」
「何か文句あんの」
「いや、そーゆうわけじゃ…」
「そこどいて」
そう言ってわざとシーツを小松に向かって広げる。
「手伝う?」
「触らないで」
「あ、髪似合うじゃん」
それは一番に言えよ!…じゃなくて、
「うるさい」
そうそう、それ。
「なぁ、話を聞けって」
「聞かない。帰って」
口調を強くしないと泣いてしまいそうだ。
いくら立ち直るのが早いと言っても、あたしの中にまだこいつは大きく陣取っているのだから。
「俺はお前に言い訳したいし、お前だって俺に聞きたい事あるだろ」
「言い訳?」
「今から言う事に絶対に嘘はないから」
「へー…」
「それすら信用できないってか」
「当たり前でしょ」
「まぁいいや、それでも聞いてくれれば」
小松は相変わらず腰を下ろしたまま。あたしも強く言って追い返す気はない。
小松の言う"言い訳"が聞きたかった。
つくづく自分のお人好し加減に呆れる。
結局あたしは小松を信じたいんだ。
「俺さ、よく主任の雑用手伝って小遣い稼ぎしてたんだ。その時お前の話になった。付き合ってるけど別れたいって、だから…」
「別れやすくしろって頼まれたんだ」
聞くと、小松はこくんと頷く。
「転勤する前に別れたいから、松田の浮気相手にならないかって持ち掛けられた」
「最低」
「分かってるよ」
そう言って深く息を吐く姿が妙に弱々しくてどこか可愛くて、こんな状況でそんな事を考えてる自分が恥ずかしくてぷいと目を逸らした。
「同じ頃、睦月から松田の話を聞いた。たまたま一緒に納品に行った日があったんだ。あいつお前の心配してた」
「…嘘」
「言っただろ、嘘はないって。俺だって睦月と主任が付き合ってたなんて知らなかったよ。あいつは松田の目を主任以外の男に向けたいって言ってただけで」
「何それ」
無関心を装って布団の値札をハサミで切っていく。何を言われても信じないという態度を見せた。
本当は二人だけの空間が落ち着かないだけなのに。
「主任以外の男と堂々とデートしたら不倫のリスクの大きさが分かるんじゃないかだって。睦月だから言えるセリフだろ」
「長い言い訳」
「ほんとの事だ」
「睦月はあたしに主任を盗られたのが悔しいだけでしょ?心配するフリして復讐したいだけじゃん」
「違うって、あいつはお前に自分と同じ目に遭ってほしくなかったんだよ」
「じゃあ何であんなに小松と付き合えって薦めるわけ!?」
「それは―…、」
「ほら、答えられないじゃん。そうやってあたしと小松を適当にくっつけて時期を見て別れさせたらいいやって事でしょ」
布団とシーツを四隅の紐できっちり結んで、また小松に向かってバサバサと広げる。
「なぁ、松田」
「わざわざ彼女役まで仕立て上げて、どーゆう神経してんのよ」
「あれは睦月の妹だ」
「は!?」
「あの日の事話すから、頼むから最後まで聞いてくれ」
横目で見た小松の顔が真剣すぎて、やっぱり目を逸らしてしまう。そんなあたしに言い聞かせるように、小松はゆっくり話し始めた。