夏の終わりに@-5
「ホラッ、早くなさい」
私は考える間もなく彼女のクルマに乗り込んだ。
「アレッ、あなた…」
助手席の私は俯いて乗っていたが、篠原は気づいたようだった。
途端にクルマはスピードを上げて学校へと向かった。
学校への道中、私も篠原も何も喋らなかった。
10分後、クルマは学校の駐車場に停まった。
「先生、ありがとうございました。助かりました」
私は篠原と視線を合わせる事なく助手席ドアーを開けた。その時、篠原の手が私の腿を掴んだ。
「な、なんですか…?」
「部活が終わったら、美術室にいらっしゃい」
彼女は、私があの日見た時のように口の端を上げてニヤリと笑った。
私は彼女の手を払い除けた。
「…な、なんの話ですか!!」
「あの日、倉庫を覗いてたのはアナタでしょう。しかもその後、部室で隠れてマスターベーションしてたわね」
篠原の言葉に、私は全身が赤くなる思いだった。
「それをバラされたくなけりゃ言う通りにしなさい」
篠原は私にそう言った。その目は実に妖しいモノだった。
部活を終え、私はいつものように手洗い場で身体を拭いていた。
「今日も暑かったけど、大丈夫だったか?」
チームメイトの太田が声を掛けてきた。
「今日は大丈夫だったよ」
私は他愛のない返事をする。太田には悪いが、今の私にはそんな事より、この後に待っている事の方が気になっていた。
部室に戻り、そそくさと着替えた私は、
「…オレ、先に帰るから」
そう言って出て行こうとした。すると、チームメイト達は訝かしげな表情を見せる。
「なんだよショウ。帰りにコンビニ行かないのかよ?」
私の行動を不思議に思った太田が声を掛けた。
「ああ、ちょっと急ぐから」
私はそう言って部室を後にした。
渡り廊下を通って校舎へと入ると、階段で美術室のある3階へと駆け上がった。
嫌悪していた篠原に命ぜられるまま、私は彼女の待つ部屋へと急いだ。