Stealth@-1
歩道と車道の間に植えられたケヤキの木に囲われた道。メインストリートから外れているため、クルマもたまにしか通らない閑散とした場所。
その歩道を男がひとり歩いていた。170足らずの身長に、でっぷりと太った体格。身につけたスーツが窮屈そうだ。
顔立ちから40代なのだろうが、薄くなった頭で年齢より老けて見える。
男に、1台のクルマが近づいた。国産のセダンだった。
クルマは男のそばに停車すると、助手席の窓ガラスが開いた。
「恐れ入ります。〇〇への行き道をご存知でしょうか?」
男に声を掛けたのはブロンドの髪を横わけし、スレンダーな体型をした外国人だった。
呼ばれた男は辺りを窺いながらクルマに近寄ると、素早く助手席に乗り込んだ。
男を乗せたクルマは、猛スピードでその場を走り去った。
クルマの中、外国人はフレンドリーな口調で男に話掛ける。
「ジョージ、久しぶりだな」
〈ジョージ〉と呼ばれた男は運転手に答えた。
「…2年ぶりかなマイク。アンタも出世したと聞いていたが、そのわりには、しみったれたクルマに乗ってるんだな」
ジョージの嫌味を、マイクと呼ばれた男は笑顔で受け流す。
「我々の仕事は目立っちゃマズいからな」
「なるほど…」
クルマはケヤキに囲まれた道を抜け、メインストリートとの合流点にさし掛ろうとしていた。
ジョージが再び口を開いた。
「ところでマイク。今日はオレに用があって、こんな手の込んだセットアップをしたんだろう?」
「もちろん。オレがプライベートで、アンタを表敬訪問するなんて事は無いよ」
いつしかクルマは、高速の入口へと向かっていた。
「今からドライブと洒落込もう。〈指令〉を渡すにはクルマの中が最も安全だからな」
そう言うと、マイケル・リベンジャーは高鍋譲二に笑顔を向けた。
『Stealth』
某所。
小さな喫茶店。
レンガ造りの壁にはツタが絡まり、建屋の古さを物語っている。
その中、レンガに囲まれた店の奥に施されたテーブル席に、2人の男が座っていた。
ひとりはグレイのスーツ姿。40代半ばくらいか。短く刈込んだ髪を横に分け、華奢な身体と神経質そうな顔は、税務署の係長といった風情だ。
もうひとりは若く30前後だろう。細身の黒いスーツにストライプのシャツ。茶に染めた長髪は、とても普通の職業に就いてるとは思えない。