Stealth@-8
「…まず床面には圧電素子が埋め込まれている。これは、床全面で重さをグラム単位で測定するそうだ」
「…なるほど…」
「次は温湿度センサーが、電算室10ヶ所に取付けられている」
「侵入者による変化か…」
「そう。人間はわずかながら熱と水蒸気を排出している。その変化をセンサーで捉えるんだ」
「その他は?」
「後はクモの巣のように張り巡らされた赤外線センサーと、10基の監視カメラ」
「じゃあ、映画みたいに空調ダクトからの侵入は?」
「あんなモンはフィクションの中での話だ!」
イタズラっぽい顔を見せる恭一に対し、高鍋も乗って言い放つ。
「電算室のトラップは分かった。で、そのインターフェース盤は何処に有るんだ?」
「インターフェース?」
「トラップのセンサーは、全てアナログセンサーだ。これらはデジタル変換されて、各警備機器に繋がってる。
だから、変換装置を働かなくすれば侵入は可能なハズだ」
恭一はそう言うと図面を指でたどっていく。そして、電算室裏の機械室に変換装置があるのを確認した。
「ここへの侵入は無理だな…」
恭一はため息を吐き、イスの背もたれに身体を預けた。お手上げといった表情だ。
説明を終えた高鍋は席を立った。
「時間は充分に有る。ここで、じっくり考えてくれ」
高鍋の言葉に、恭一は美奈の事が気になった。
ジャケットの内ポケットから携帯を取り出すと、
「その前にオフィスに連絡させてくれ」
そう言ってディスプレイを見ると、意外な事に圏外となっている。
「ああ、この部屋からは無理だな。向こうの事務所を使うといい」
高鍋に促されるまま恭一は席を立った。
(街中のビルで窓のある部屋なのに圏外になるなんて…?)
不思議に思いながら恭一は事務所へと向かった。
───
昼。高鍋と恭一は、近くの定食屋を訪れていた。
牛スジの煮込み。これにごはんと味噌汁で500円。リーズナブルな昼食を2人は向かい合って食べている。
「アウトラインは決まったか?」
食事をたいらげ、ひと心地ついた時に高鍋が恭一に訊いた。
「…だいたいはな。しかし、期限が1ヶ月というのは…」
これまで、機密を盗み出すのに早くて2ヶ月、中には1年以上掛かった場合もある。
恭一は各企業の情報管理の弱い部分を、徹底的に調査してから仕事に掛かっていた。
だからこそ正確な情報を盗み出せていた。
恭一はその旨を伝えるが、高鍋は譲らない。