Stealth@-6
「あ、はい。じゃあ、お先に…」
「ああ、お疲れさん」
美奈がオフィスを後にしたのを確かめると、恭一は受話器を取ってボタンを押した。
相手である高鍋はすぐに出た。独特の低い声が受話器に響く。それを聞く恭一の顔は、先ほどよりもさらに険しさを増している。
「松嶋だが…」
高鍋は何の前置きも無く、
「仕事だ。明日の午前9時にウチのオフィスに来てくれ」
そう伝えると電話を切った。
「まったく。相変わらず勝手な野郎だ…」
そう独り言を呟きながら、恭一は電話を戻すと、再び受話器を取った。
今度は美奈へ。
数回のコール音の後、彼女の携帯と繋がった。
「…ああ、美奈か?オレだ。明日だが、急用でオフィスに来れない。オマエはいつも通りに来て電話番をしててくれ。…そうだ、じゃあ…」
美奈への連絡を済ませた恭一は、しばらく何かを考えていたが、やがて納得したような表情をするとオフィスを後にした。
───
朝9時。
某所にある数階建ての小さなビル。その駐車場にルノー4が停まっていた。
恭一は、このビルの最上階に向かっていた。そのワンフロアー全てが高鍋譲二のオフィスだ。
オフィスに訪れると、高鍋自らが出迎えた。
「こっちに来てくれ」
高鍋はそう言うと、恭一をいつもの部屋でなく奥にある応接室へと招いた。
旧知の仲である2人。
クライアントとトレーダー。それが2人の間柄だ。但し、それは恭一の裏の顔に対してだ。
産業スパイ。
各企業がしのぎを削る最新鋭のテクノロジー。それを秘密理に調べ上げ、あわよくばメーカー独自に創造した技術を盗みだす。
それが恭一の裏の正体。
昔はメーカー自身、自社の社員を使って情報を盗み出していたが、公になった場合のリスクが膨大なために辞めてしまった。
その代わりに、機密を盗み、企業に売るのを専門とする業者が現れた。
高鍋はその業者で、各企業の依頼により機密を盗みだし、その情報を売買していた。その取引企業は100社を超えるほどだ。
その高鍋はクライアントとして、恭一を含めて20人あまりの産業スパイと契約している。
なかでも、恭一の情報収集の正確さは、この業界でもトップクラスで高い信頼を得ていた。
「今回のターゲットは播磨重工だ」
高鍋の言葉に、恭一は思いつくままに口にする。