Stealth@-4
「会社の女子社員を追い駆けまわす…それを見たアンタの上司はどう思うかな?」
「…わ、分かった!…金は、30万は払う」
松嶋は首を横に振った。
「いらんね。それよりもアンタを社会的に抹殺してやりたくなった。これまでの経緯をアンタの会社やネット上でバラしてやる。
せいぜい身の振り方を考えておくんだな」
そう言い放つと席を立った。すると、鮎川が松嶋の行く手を塞いだ。
「なんだ?」
次の瞬間、鮎川は松嶋の前に跪くと額を床にこすり付けた。
「ま、松嶋さん!どうか、どうかこの事は、内密に!お願いします。か、金は倍払いますから…」
もはや、周りの視線をはばかる余裕も無い。
そんな鮎川の姿を見下げていた松嶋は、しゃがみ込むと一変、明るい表情を向けた。
「…冗談だったんでしょう?鮎川さん」
「エッ?」
鮎川は、呆けた表情をしたままだ。松嶋は笑顔を崩さず言葉を続ける。
「私をちょっと、困らせてやろうと思っただけでしょう?」
白い歯を見せる松嶋。鮎川は、取り繕うように笑顔を作った。
「じ、実はそうなんです。つい、貴方をからかってみたくなって」
周りの視線が、松嶋達から離れていった。
「そうですよね……では、振り込みの方、お願いしますよ。10日以内ですから……」
松嶋は請求書を鮎川に手渡すと、出口へと向かった。
「…あの…ビデオテープは?」
松嶋は振り返ると微笑んで、
「振り込みが確認されれば、会社の方に、貴方宛でお送りしますよ」
そう言うと喫茶店を後にした。
───
繁華街から少し離れた場所にある雑居ビル。松嶋の運転するルノー4が、ビルの地下にあるパーキングへと滑り込む。
地下からエレベーターに乗り、向かった3階の1番奥が彼のオフィスだった。
〈アイ・オフィス〉と書かれたドアーを勢い良く開いた。
「ただいま!」
松嶋は努めて明るい声を響かせ中に入った。
パーティションに遮られた奥は10畳ほどの広さで、真ん中にくたびれた応接セット、部屋の片すみに事務用デスクが置かれている。
「…おかえりなさい。ずいぶん遅かったんですね?」
片すみのデスクから松嶋に声が掛かる。ジーンズにパーカーという軽装、短く束ねた髪に薄い化粧が若さを主張する。
梶谷美奈。恭一の遠縁にあたり、半年前から事務のアルバイトとして雇っている。
短大を卒業後、就職もせずブラブラしてるのを、美奈の両親が見かねて恭一に相談してきたのだ。
恭一は奥の給湯室で、カップにコーヒーを注ぎながら美奈に答える。