Stealth@-2
名を松嶋恭一という。
俗に言う〈探偵業〉を営んでいる。探偵と言えば聞こえは良いが、やってる事は浮気調査や人探しが主な仕事だ。
今も浮気調査を依頼した、クライアントへ報告の最中だった。
「鮎川さん。こちらが調査報告書です」
松嶋から鮎川と呼ばれた男の前に、10ページあまりの書類が置かれた。鮎川は黙ってそれを受け取ると、パラパラとめくって中身を確かめる。
「…浮気の実態及び、兆候は見られず…か…」
「ええ、2週間の調査から、まったく掴めませんでしたから」
眉間にシワを寄せて報告書を見つめる鮎川に対し、松嶋は明るい口調で答える。
しかし、松嶋の説明に鮎川は納得出来ないのか、険しい顔で食って掛かった。
「だが、変じゃないか!毎週2回、アイツは午後から家を空けてるんだぞ」
松嶋は苦笑いを浮かべる。
(これじゃ奥さんも大変だな…)
女房を自分の〈所有物〉のように扱い、わずかな変化も疑って掛かる。執念深い上に人の説明を聞かない。典型的な小心者。
松嶋は心の中で鮎川を蔑みながら、優しく語り掛けた。
「奥さんはカルチャー・スクールに通われてますよ」
「カルチャー・スクール?」
「ええ、料理教室です。ご近所の奥さん連中と、隣町の〇〇という教室に通われてます」
松嶋はスーツの内ポケットから数枚の写真を取り出すと、鮎川に渡した。
写真は数人の女性達と、笑顔で料理教室の門を潜る鮎川の女房が写っていた。
「…家族のために美味しい料理を身に付けようとする。健気な奥さんじゃないですか」
柔和な表情で答える松嶋。が、それが癪に障ったのか、
「うるさいな!アンタに関係無いだろう」
顔を赤らめ激昂する鮎川。
(やれやれ…処置無しだ…)
松嶋は話を切り上げようと、内ポケットから1枚の紙キレを鮎川に差し出した。
「何だ?これは」
「請求書です。1日12時間の調査で2万。それを2週間。他に必要経費が7万。計31万ですが、初回という事でサービスして30万円です。下に書かれた銀行口座に……」
鮎川の顔がみるみる赤くなる。