Summer Day-2
「先生」
「んー?」
問題集にペンを走らせながら返事をする。
「先生って、本当に幸先輩が好きなんですか?」
その言葉に、ペンを止める。
「…だったら?」
「いや、先生には負けませんからって言おうと思って」
俺は顔を上げ、奴の顔を見る。
奴は自分の課題をやったままこちらを見ずに、下を向いていた。
ふと、体育祭の前日を思い出した。
「…お前さ、何かあったの?」
「…何がですか」
「いや、いつもみたいな余裕がないから」
ずっと聞きたかった。
『俺だって、余裕ないですよ』
あのときの総太のあんな表情、見たことがなかった。
「なぁ、お前、どうしたんだ?」
すると、総太はペンを止めてこちらを向き、にっこりと笑って言った。
「先生、俺、蕎麦食いたいです」
聞かれたくない、わけか。
ちょうど冷蔵庫に何もなかったため、総太のリクエスト通り蕎麦を買いに行く。
コンビニまでの道は徒歩でも20分はかからないので、自転車で行くことにした。
ガソリンも最近高くなったし、たまには自転車もいいだろう。
自転車を走らせると暑い日差しと涼しげな風が俺にぶつかってきた。自転車が傾かないよう、注意して走らせる。
空はどこまでも蒼く、どんな気持ちで何を考えているのか全く分からなかった。