陽だまりの詩 18-4
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お父さんと病院の廊下を歩く。
どこかへ向かっているらしい。
「…」
「…」
互いにしばらく無言だった。
なぜお父さんは奏のことをおしえてくれないのか。
これ以上、理由を考えていると、どうしても嫌な考えばかりが頭をよぎり続ける。
「お父さん、奏は…」
「春陽」
「…はい」
「お前にこの現実を受け入れられる力があるかはわからない。短い間にこんなことが二度も起こったしな…」
現実、か…
美沙の死で俺はもういっぱいいっぱいなのに。
お父さんは真っ直ぐに俺を見つめる。
つい目を合わせると、蛇に睨まれた蛙のように体が動かなくなる。
「…」
「…」
しばらくの沈黙の後に、ようやくお父さんは素早く口を動かした。
「奏はもう歩けない」
「…え?」
よく聞こえなかった。
「奏はもう一生歩くことはできない」
奏が歩けなくなる。
それは悲劇以外の何物でもなかった。
神様は、奏の努力までも奪い取っていった。
だが、俺の心に一番に浮かび上がったのは、悲しみではなかった。
「……よかった」
「春陽?」
「奏が助かって…よかった…」
奏が生きていること。
俺は大きすぎる悲劇の中の、ほんの小さな一部分の幸せを感じて、またも涙を流してしまった。