紅い道化師-1
「あの靴音は間違いない...」
僕は最近噂になっている、ある話を思い出して好奇心と恐怖心の狭間で
身動きが取れなくなってしまった。
それは、こんな都市伝説だった。
人気の無い夜の路地裏から、華麗なタップのリズムが聞こえてきたら
決してそこへは近づいてはいけない。
もし近づいて、タップダンスを踊るピエロを見てしまったら...
「ほら、君の目の前にある白線はステージとの境界線だよ。ここから先は立ち入り禁止。
あとはピエロを照らすスポットライトが点灯したら開始の合図だ。」
そうなったら、もう君は彼の観客だ。
最期まで彼のショーに付き合うしかない。
途中退席はご法度なのさ。
タタタタッ!!タタン!タッ!タッ!
…
いつ終わるともわからない、長い長〜いショータイム
でも、君はもう彼から目が離せなくなっているはずだよ。
お世辞抜きで、本当に彼のステージは素晴らしいんだ。
でもね...
ショーが終わった時が最後のチャンスだ。これを逃すと、もう後は無い。
「彼がお辞儀したらブーイングをするんだ。決して拍手をしちゃいけない。」
君がブーイングをすると、ピエロは悲しげな表情をして去っていくはずだよ。
でも、拍手をしてしまったら...
ピエロはまるで祝杯でもあげるように、シャンパンの栓を抜くような動作をするだろう。
シュポン!!
「お代は確かに頂戴致しました。今後ともごひいきに。」
そう言い残し、真紅の唇をしたピエロは去っていく。
その跡には、頭と胴体が切り離され、胴体だけがミイラになった死体が残されるんだ。
ニヤリ...
END