夏の始まり、夏の終わり(後編)-9
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東京の郊外に私たちはマンションを借りた。
もう少し駅を下れば、もう少し広い部屋を借りられるのだが…
彼の仕事は夜が遅くなるので、通勤を考えてここにした。
駐車場は1台分借りることが出来たので、私の愛車を連れてきた。
「本当に自分の車で来ちゃうんだもんな」
彼は荷物でいっぱいになっている私の愛車を見て驚いていた。
私が田舎で暮らすには、たいした荷物などいらなかった。
それは東京に来ても同じことだと思う。
服も鞄も装飾品も…ろくに持っていないのだから。
彼は一足先に、ここで暮らし始めていた。
「遠距離って、やっぱり寂しかったよ」
彼は私の荷物を手に取りながらそう言った。
付き合い始めてからも、私たちは東京とあの田舎町で離れて暮らしていた。
1年弱の時間が経っていた。
彼は、私の心が本当に落ち着くまで気長に待っていてくれた。
「今日ね、お墓参り…行ってきたよ」
私は彼に言った。
「ちゃんと、伝えたいこと…言えた?」
彼は穏やかな口調で私に語りかける。
「うん」
私は短くだったが、はっきりと彼に答えた。
「あっ」
彼が突然、驚いたように声を発した。