夏の始まり、夏の終わり(後編)-8
「ごめんね…」
この言葉を言うのに、私はどれだけの時間を費やしただろう。
彼はもういない。
だから、こんなことをしても自己満足でしかないのかもしれない。
それでも、言わなければならなかったのだ。
当たり前のことなのだから。
「ごめんね」
私は繰り返す。
他の言葉なんて見つからないのだから。
「ごめんね」
気付くころには、線香は全て灰になり陽は少しだけ傾きかけていた。
私は額から流れる汗を手の甲で拭い、歩き始めた。
元の夫にも謝らなければいけないのだけれど…
彼には彼の今の生活があるだろう。
私のように、前に歩き出しているかもしれない。
曲がった暗い道ではなくて…
真っ直ぐで明るい道を。
だから、本当にそうなっているようにと…
私は祈ろう。
私は穏やかな気持ちで歩き続けた。
駐車場に戻ると、可愛い赤の愛車が私の帰りを迎えてくれた。