夏の始まり、夏の終わり(後編)-7
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今日、私は初めて訪れたお寺の敷地を巡った。
大きいお寺で、檀家の数も多いのか…
墓の数もかなりなものだ。
私はゆっくりと歩きながら、ひとつの場所をひたすら探した。
私は見覚えのある苗字の墓の前で立ち止まった。
ここだ…
冷めた言い方をすれば、ただの大きな石。
しかしその下には…
私が過去、落ちるところまで落ちて…
それでも構わないと…
想った男の子が眠っている。
私は少しの花と線香を立てる。
私の存在を知った彼の母は、激しく私を拒んだ。
彼の友人から全てを聞かされた母親は、私のことを人殺しと罵った。
愛情を注ぎ大切に育てた息子が、人妻に騙され…裏切られ…
彼の母親が思うことのほうが、世間的に当然だった。
私はだから、今まで逃げ続けていた。
こうやって彼の目の前に立つのが怖かった。
線香はゆるやかに優しく煙となりながら燃え続ける。
何をどう…彼に語りかければいいだろう。
私は真剣に考え続けた。
私は彼に、何と言いたかったのだろう。
何を伝えようとしているのだろう。
それはひとつしかないのかもしれない。