夏の始まり、夏の終わり(後編)-6
「俺なんてずっとそうだよ。だからね、君のことを凄いって思うんだ」
「そんなこと…」
彼のような道を歩んできた人が私は羨ましい。
「立ち止まった後、でも実は…そういう人間のほうが高く飛べるんじゃないかな」
「飛べる?」
「うん。立ち止まった分、強くなれてるはずだから」
「強く?」
「人にごめん…と言える人間は、本当に強い人だと思うから」
彼は、手を止めている私の器に鍋の具をたくさん入れてくれた。
「ほら、お腹いっぱいにして部屋に帰ろう」
彼は満点の笑顔でそう言った。
部屋に帰ろう…か。
もう、私は貴方の部屋に行くのは初めてなのに…
帰ろうって、おかしいじゃない?
私は心の中で一人笑っていた。
「うん、帰ろっか」
私は、初めて行く場所に 「帰る」 のだ。
貴方が帰ろうと言うのだから。
私にとって東京は、もう笑顔で過ごせる街に変わっていた。