夏の始まり、夏の終わり(後編)-5
彼は変わらぬペースで辛い鍋を口に運んでいる。
表情を少しも崩さず、少し柔らかい表情のまま私の話を聞いている。
私は一通り話し終えると、彼の反応が気になり…
勇気を出して彼の目を見た。
彼はそんな私を見ながら、再び額の汗を拭った。
まるで、私が全て吐き出し終わるまで…見守っていてくれているかのようだった。
「過去があるから、今、生きているんだよね」
彼は、少し笑って…ゆっくりと言った。
正直、嫌な顔をされると思った。
もしかしたら、回りくどい言い方で私を拒むかとも思った。
しかし彼は違った。
「あの夜ね、俺に話してくれたんだよ」
遠い記憶に残っている…私が呟き続けたのは…
夢ではなかったのだ。
「大人ってさ、自分を責めたらきりが無いから」
彼は穏やかな表情のまま言葉を続ける。
「自分は悪くないって言い続けるんだよね」
「え?」
「自分が悪いって認めると、ずっと立ち止まらなきゃいけないから」
私は、汗をかきながら辛さに息を乱す彼をじっと見た。