夏の始まり、夏の終わり(中編)-4
「お店の番をしている以外には、何をしているんですか?」
男は、自分の話を止め私に再び訪ねてきた。
「あんな田舎なので、家でゴロゴロしたり…」
「あはは、僕もそうですよ」
「え?そんな風には見えない」
「旅行行きたいなあ」
「旅行お好きなんですか?」
男は、学生時代よく旅行にいっていたのだそうだ。
「現実逃避って感じですが」
男は笑いながら言う。
「うちの町に来るのも、ある意味旅行みたいなものですね」
私は言った。
「ええ、仕事じゃなかったら」
私は笑顔で話す男の顔を見ながら、思ったのだ。
そうかもしれない…
男にとっては、私と交わすたった10分程度の時間は現実ではないのかもしれないと。
男の生活には何ら影響のない…
少し、昔を懐かしんだり…静かな風を感じたり…
そんな時間。
「でも、毎日仕事でも、それはそれで楽しいのかもしれませんね」
この男は、私がくだらぬ汚れた人生を送っていた間に…
真っ直ぐ陽の当たる道を歩き、生きてきたのだ。
何で…好きだなどと…思ってしまったのだろう。
この社会的地位もある、都会で高々と生きている男と自分が同じ世界に立てるわけがないではないか。