夏の始まり、夏の終わり(中編)-12
「さすがにこの暑さで…五時間かかってしまいました」
彼の腕を見ると、真っ赤に日焼けしてしまっていた。
「なんのために?」
「何かを課したかったんですよ、自分に」
彼は、少しだけ真剣な顔で言った。
「何かを乗り越えれば、貴方に逢えるんじゃないかって」
「そんな無茶苦茶な…」
「無茶苦茶だけれど、本当に逢えたから」
男は、言い終えるのと同時に大木の影に座り込んだ。
「入道雲って、綿菓子に似てるなあ」
独り言のように男は呟く。
「美味しそうですよね」
私は答えた。
私たちは、空を見上げた。
再び逢えたこと、それだけの幸せをかみ締めながら。