夏、そして夏。side C-1
「今年は会えるといいね」
この言葉をもう何度口にしただろう。
あたしには一緒に祈ることしかできない。
ただ彼女を応援することしかできない。
相原 千夏‐あいはらちなつ‐水泳部マネージャー。通称、チー。
あたしも昔は水泳をやっていた。麻ちゃんと風太くんの幼なじみである。
高校に入ってからはマネージャーをしている。
そして、ずっと近くで麻ちゃんを見てきた。
ついに明日、大会が始まる――。
ウチの学校からは麻ちゃんをはじめ、4人の部員が出場する。今日の練習はアップ程度で、今は飛び込みの練習をしている。
麻ちゃん、明日会えるんだよ。風太くんに会えるんだよ。
そう考えるだけであたしは目頭が熱くなった。
伴ちゃんが、風太くんの居場所を見つけだした。そして明日の大会に出場するらしい。
去年の大会、風太くんが来ていないと知った麻ちゃんのタイムはボロボロだった。麻ちゃんは何も言わなかったけど、ショックだったはずだ。そして、何も言わない麻ちゃんをあたしは見ていられなかった。
やっとそれが明日――。
麻ちゃんの6年の思い、そしてあたしの6年の願い。
「チー先輩、どうしたんですかー?」
泣きそうなあたしの顔を恵那ちゃんが覗き込んだ。
「なんか、いろいろ思い出しちゃって…」
「あー‥麻さんか。そうですね、今年こそメダル取れるといいですね。
でも、先輩!あたしの応援も忘れないでくださいよ」
「もちろんだよ!」
みんなが練習を終えてプールから上がってくる。
きっと、麻ちゃんはもう一泳ぎするだろう。
背中が少し緊張しているように見えた。
あたしは込み上げてくるものを押さえるのに必死だった。