『僕の瞳に映るのは……』-11
「ファーストキスか……。僕の相手は幽霊だったって言っても、誰も信じやしないだろうな……」
思い出した様に僕は唇に触れてみる。
まだ、あの時の感触が残ってる。茜、君は今どうしてる?……
そして僕は、まるで癖になってしまった様に溜息をついた。
「いかんよ君!!まだ精密検査の結果が出ていないんだから、病室に戻りなさい!!」
後ろの方で医者の叫び声が聞こえる。
「全く騒がしい病院だな、本当に……」
そっと顔を上げると木々の隙間から木漏れ日が瞬いている……
(…………)
微かな囁き声が聞こえた気がして、それに合わす様に目を細めて僕は少しだけ笑う。
「な、何だ!?」
僕の視界は突然闇に包まれ、慌てて目に手をやると暗闇の正体はすぐにわかった。
わかった……
だけどわからない……
僕は暗闇の正体を確かめたまま、固まってしまう。
だって……
嘘だろ……
僕の耳元でクスクスと笑い声が聞こえる。
そして僕の目を覆っていたのは、小さくて柔らかい手……
目を閉じたまま、僕は暗闇の正体を自分の腕の中に抱き寄せた。まだ目を開けるのが怖い……
「夢じゃ……ないんだな?」
「…うん…」
つぶったままの僕の目から涙が溢れて行く……
「ばっか…やろう……あの後どれだけ……僕がどれだけ……」
「ごめん…なさい……」
今、目を開けてもきっと滲んで、ちゃんと見えないだろうな……
「あたしね、意識不明だったんだって……。だけど、生きてるよ。幽霊じゃないよ……」
弾む様なその声に僕は大きく頷いた。
「お帰り……茜……」
「ただいま…智則…」
さあ、目を開けよう……
滲んで、ちゃんと見えなくても、そこには僕を見つめて微笑んでいる君がいる筈だから……
後ろの方で僕等には聞こえない医者と看護士の会話があった。
「あの患者の名前は夕子だったと思うのだが。」
「ええ、何で茜なんでしょうねぇ?」
Fin