タバコは二十歳になってから-3
「吸うか? セッタだ」
「やだよ、セッタきついもん」
「なに吸ってんの?」
「えっと、ラキスト。つか親父、マイセン派じゃなかったっけ?」
「セッタもうまいぞ」
なおも差し出してやると、賢吾はしぶしぶと言った感じにそれを取った。
「ん」
口に銜えたところでライターを渡してやる。噎せるかな、と思ったが、意外にも賢吾はスムーズに煙を吐いた。
「なんだお前、金魚か」
「金魚?」
「肺までいれずに吸うこと」
「ああ。まあ、そだけど」
「勿体ねえ。返せ」
「やだ」
そして俺達は、二人で同時に煙を吐いた。
「親父泣かないね」
賢吾が言った。なにげないふうを装っているのがバレバレだ。
「悲しいけどな」
「ふーん。アネキなんかドバドバ泣いてたのに」
「亜弥が泣きすぎなんだよ」
「俺もそう思う」
「お前さ、将来の夢とかあんのか」
何気ないふうを、敢えてバレバレの演技で装って聞いた。
「ないね」
「じゃ、大学行かずに就職だな」
「……やっぱある」
「なに」
「別に」
なにが別になんだか。苦笑を噛み殺した。
「親父さ、そろそろ戻んねえとヤバくね?」
「そだな」
時計を見るともう9時30分を回っている。携帯灰皿をポケットに仕舞い、俺は立ち上がった。
歩き出して、ふと賢吾がついてこないことに気がついた。振り返ると、賢吾が思い切り噎せていた。