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幸せのカタチ
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幸せのカタチ-1

 幸せのカタチ

「やった!ついにうちに来るぞ!!」

その声を聞いたのは、年の瀬の差し迫った12月30日の事でした。
台所で正月用の数の子をお重につめていると、散歩から帰ってきた夫が玄関先で
歓喜の声をあげたのでございます。

「やった!ついにうちに来るぞ!!こりゃいい年を迎えられるにちげぇねぇ!!」
そう言いながら、夫は一枚のカードを持って台所の私の所へかけてまいりました。

「なんです?一体何が来るんです?年の瀬に騒々しい」

「見ろ!!波だ!!広重じゃなく北斎だ!!」

夫が私に見せたのは、葛飾北斎の神奈川沖浪裏がプリントされた小さなカード。
そう。オマケとしてついているあのカードの中の1枚でございます。

この村には、いつの頃からかこんな言い伝えが...

「北斎の波を手にするモノ、幸せの使者訪れる」

私も無駄に歳を重ねてきましたが、東海道五十三次が描かれたカードを完全にそろえた者は
居ても、富嶽三十六景を揃えられた者は未だに...

特に波のカード「神奈川沖浪裏」に関しては誰一人として手にしたものはおりません。
なぜだかはわかりませんが、単なる偶然だと思います。
しかし、ただの偶然でも何十年も続くと、いつしか伝説になるのでございます。

その昔、こんなことがありました。
ふらりと村に立ち寄った絵心のある男が、言い伝えを聞き「神奈川沖浪裏」そっくりな
カードをつくって一儲けする事を思いついたのです。
何人かの村人が騙され、男はさらに値を吊り上げるために競売にかけることに。

しかしその競売の前日、その男は津波にのまれ...


こうして「ただのうわさ」は「言い伝え」へと昇格したのでございます。
そして今、夫が持っているのは、その言い伝えのカード...
では無く、良く見ると構図がそっくりなポラロイド写真を切り取った物でした。

「さっき散歩してるときに偶然撮れたんだ。気分だけでも嬉しいだろ?」

単なる写真で無邪気に喜ぶ夫を見ていると、なんだか私も嬉しくなってきました。

「おっ!!早速幸せが訪れたか?!こりゃ美味い酒が呑めるぞぉ!!」

そう言う夫が見る先には、見事な雪の華が咲いておりました。

「幸せの使者訪れり」


END


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