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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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笹沢瀬里奈の悩み 〜Love trouble〜-10

「あ〜……」
 いつまでこの姿勢でいればいいのか分からず、秋葉は思わず声を出す。
 その声に、輝里は顔を上げた。
 泣き濡れた瞳が美しく、夜闇で光る唇がなまめかしい。
「……うぁ。」
 不埒な話だがキスしてみたいと、秋葉は思う。
 二人はしばし、見つめあい……輝里が、目を閉じた。
 ここで退いたら男がすたる。
 決意を固め、秋葉は体を屈めた。
 そして、動きを止める。
 手をどこに添えればいいのか、分からない。
 体を抱き締めていればいいのか。
 それとも頬を包めばいいのか。
 はたまたただぶら下げていればいいのか。
 焦ってあれこれ考える秋葉は、体を屈めた姿勢で固まってしまう。
 そうこうしているうち、準備万端なのにいつになってもキスが降って来ない事に不審を覚えた輝里が目を開けてしまった。
「……秋葉……?」
 ショックで、輝里は呟く。
 勇気を振り絞って差し出した唇にキスができない程自分は魅力に乏しいのかと、輝里は思った。
「あ……いや、さ……その……」
 悩んだ揚句、泣きそうな輝里へ秋葉は真正直に打ち明ける。
「お……女の子と付き合った事がないから、分からないんだ……今だって、キスしたいのにできなかった……こんなに、ドキドキしてるのに」
 秋葉は、輝里の手を自分の胸に触れさせた。

 ドクッ、ドクッ、ドクッ……!

 生命(いのち)を刻むその鼓動は確かに早く、輝里は涙を引っ込めてしまう。
「あ〜……言い訳にしかならないけど、そういう事なんだ」
 キスする機会を失した事を詫びるつもりで、秋葉はそう言った。
 その言葉に、輝里がくすりと笑う。
「秋葉……目、閉じて」
「?」
 言われた通りに、秋葉は目を閉じた。
 途端に柔らかいモノが、頬と唇に触れる。
「……!」
 驚いて目を開くと、超至近距離に輝里の顔があった。
 閉じた瞼が、微かに震えている。
 輝里がキスしているのだと気付くまでに、しばらく時間がかかった。
「……輝里」
「……へへ」
 唇を離した輝里は、照れ笑いをする。
「キス、貰っちゃった」
 恋愛沙汰には奥手そうで初心そうな輝里の意外と大胆な行動に、秋葉は目を丸くした。
 だがそれは決して、不快ではない。
 むしろ、嬉しい驚きである。
 嬉しい驚きを味わった所で、秋葉は体を離した。
「……そろそろ、帰るよ」
 輝里は表情を曇らせる。
「あんまり遅いと、親御さんが心配するだろ?」
 言って秋葉は、煌々と明かりの点いている芝浦家のリビングらしき部屋を指差した。
「だから、今日はさよなら。その……こ、今度、デート!し、しようなっ」
「……」
 諭されて仕方なく、輝里は頷いた。
 どうやらもっと親しくなるのは、次のデートまでお預けのようである。
 輝里が了承するのを見届け、秋葉は屈めていた腰を上げた。
「じゃ、また今度な」
 輝里の髪をくしゃくしゃに撫でると、秋葉は踵を返す。
 その時、秋葉のジーンズのポケットから何かが落ちた。
「あ、秋葉……」
 それを見逃さなかった輝里は、秋葉を呼び止めてからしゃがみ込む。
「何か落とし……た……」
 輝里は、それを拾って絶句した。
 それは、龍之介愛用のコンドーム。
 念のためにと握手がてらに龍之介が押し付けた代物だが、むろん輝里がそんな事情を知る由もない。
「だわどでぅあばわあぁうなゃあ!!?」
 呼ばれて振り向いた秋葉は輝里が拾った物体を目にし、即座に事情を悟る。
 素晴らしく変な悲鳴を上げつつ、秋葉は呆然としてそれをつまみ上げている輝里の手から慌てて物体を奪い取った。
「あ、あの、あの、あの!こっ、ここ、これは!」
 まさか龍之介からのプレゼントとは言えない。
 しかし、彼女もいないのにこんなモノをポケットに忍ばせているような最低野郎だなんて誤解だけは少なくとも避けねば非常にまずいだろう。
「こっ……これはこれはこれは……え〜と……あの〜……」
 秋葉は、決意を固めた。
「龍之介が念のためとかぬかして、俺に押し付けたんた」
 いちおう庇おうとした龍之介を、秋葉はあっさり売る。
 今は遠くの友達より近くの恋人という心境だ。
「ね、念のため……」
 輝里の頬が真っ赤に染まるのが、夜闇にも分かる。
「そう念のため念のため」
「念のため……」


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