ウソ×A-1
「小松とヤっちゃっただあぁ!?」
会社の屋上には場違いな、下品な一言が響いた。
「声がデカいよ!睦月!!」
慌てて同僚の睦月の口を押さえた。辺りを見回して人がいないのを確認してからゆっくり手を離す。
「どーゆう事よ、松田ぁ?」
「どうもこうも…」
あたしにだって説明ができないんだもん。居酒屋で記憶が途切れて次に気付いた時にはそうなってたんだから。
朝、あたしが起きて間も無く小松も目を覚ました。
『おはよ』
『…おはよ』
かすれた声で挨拶を済ませ、ゴソゴソと布団の隅に丸まってるパンツを器用に足で拾って履いてる。
『あー、会社行くのめんどくせえなぁ』
『あぁ…、ね』
『何か飲んでいい?』
『いいけど』
許可をもらった小松はパンツ一丁のまま冷蔵庫を物色し出した。
えぇ?
何、このフツーな感じ。
やっぱりしてないのか?ただ同じベッドで朝を迎えただけ?でも、だったらこいつが素っ裸な理由が分からないし…
『そう言えば、お前昨日会社に車置いてきたよな』
『あぁっ』
そうだった。ずっと小松の車で移動してたんだ…
『一緒に出勤するか?』
恐らく好意で言ってくれてる提案を首を振って激しく却下。
『遠慮すんなって』
『いい!自転車で行くから!ダイエットにもなるし!!』
そんなあたしを見て小松はニヤリと笑った。
『松田スタイルいいじゃん』
『〜〜〜っ』
何!その言い方!?
まるでまるであたしの―…
「まるであんたの裸を見たような言い方よね」
「言わないでよ!!」
「しちゃったんじゃないのぉ?」
「でも何にも覚えてないの!!」
「それだけ酔ってたんでしょ」
「だからって、アレをああされたらいくらなんでも気付かない!?」
「あんたって酔うと記憶喪失になるからね」
「…」
「でもさ、小松の車であんたんちに行ってるんなら、まだ被害者面できるんじゃない?」
「無理。その後玄関の鍵を開けたのはあたしだもん」
「そんなの分かんないでしょ。小松があんたのカバン漁ったのかもしれないし」
「それはない。あたしが鍵をしまう場所はカバンの中の奥の奥だもん」
「あ、そうか」
そう。
よくカバンの中で鍵を迷子にさせるから、他の荷物にもみくちゃにされないようにいつもキーケースは厳重にしまってる。ちょっと漁ったくらいじゃ現れない。
って事は…
「連れ込んだのは松田、あんたね」
「睦月いぃ…」
「しっかし小松も馬鹿だよね〜」
「へ?」
「だって事務所であんたを見つけたのなら、一緒に探すよりまずあんたに携帯借りて自分の携帯鳴らせばいいじゃん」
「…あ、そっか」
「まぁ、馬鹿なお陰で松田は小松とデキちゃったんだけど」
「デキてない!」
あの時の小松は携帯を探すのに必死で、そんな単純な事は頭に浮かばなかったんだ。あたしだってそんな方法思い付かなかった。