投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

ウソ
【その他 恋愛小説】

ウソの最初へ ウソ 8 ウソ 10 ウソの最後へ

ウソ×A-4

「!?」
突然小松の腕があたしに絡み付き、口を大きな掌が覆った。
その体勢は抱き締められると言うよりはむしろ拘束。全身ぴくりとも動かせない。
『ピンポーン』
再びチャイムの音が響いた。
心臓が壊れそうなほど脈を打つ。
このドア一枚隔てた所に主任がいる。なのにあたしは小松に…
助けて欲しい、この状況から救って欲しい。だけどこんな姿は見られたくない。矛盾で頭がおかしくなりそう。
静まり返る空間に、外から何かを漁る音が微かに聞こえた。なんだろ、カバン…?あ、合鍵!
「ん…っ」
スッと耳に何か押し当てられた。温かいフワフワしたモノが唇だと分かったのは直接耳の中に声が入ってきたから。
「あいつの合鍵、隠しちゃった」
外に漏れないように一文字ずつ丁寧に囁かれる度にぞくぞくと体の芯が震えた。
「松田の携帯の電源も切ったよ」
「!?」
いつの間に…、さっき背中を見せていた時?あの短時間でそこまで計算してたんだ。
主任が入ってこれないように、主任があたしと連絡が取れないように―
「むぅ…っ」
叫びたいくらい悔しいのに押さえ込まれてるせいで籠った声しか出せない。
隙だらけの自分が情けなくて涙が止まらない。
『ピンポーン』
三度チャイムが鳴り響いた後、革靴の音が遠ざかっていくのが聞こえた。
「やっと帰ったか」
小松が呟くと同時に体も自由になって、へなへなと座り込んだ。
「ぅあ…っ」
可愛くない泣き声が無音の空間に飛び出す。下を向いた瞬間、床にばたばたと涙が落ちた。
いますぐ走って追いかければまだ間に合うかもしれない。でもあたしの足は立ち上がる事もできないくらい細かく震えている。
いつもの小松からは考えられないような言動や全く太刀打ちできない強い力がショックで…、だって小松ってこんなヤツだった?もっとヘラヘラ笑ってる脳天気野郎で、優しくて、間違ってもこんな事しない。
なのに何でこんな…、あたしが―
「あたしあんたに何かした!?」
「は?」
「恨まれるような事した!?あたし…っ、からかうの、そんなに楽しい?」
大っ嫌い。
小松なんか嫌い。
「全然楽しくない」
「だったら、どうして…」
「あんな奴やめとけ」
「はぁ?」
「結婚してるくせに部下に手を出すような男なんかやめろって言ってんの」
「あんたなんかにあんな奴呼ばわりされたくない」
「あいつじゃなくてもいいだろ」
「何言ってんの?」
「俺でいいだろ」
「は!?」
「俺にしとけよ」
「…馬鹿じゃない?」
「俺でもいいんだろ」
「いいわけないでしょ!」
「耳で感じてたくせに」
「ば…っ」
咄嗟に耳を両手で覆う。
まっすぐ向けられる視線は全てを見透かすよう。負けたくなくて睨み返すと、今度は一転して真面目な顔になる。
「俺、松田が好きだ」
あまりにも唐突な愛の告白だった。


ウソの最初へ ウソ 8 ウソ 10 ウソの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前