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ウソ
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ウソ×A-3

カレンダーを見て指折り数えた。小松がこの部屋に来たのはもう二週間も前の話。その間毎日掃除も洗濯もしてる。それでもどこかに小松の痕跡が残ってるような気がして、部屋中に消臭スプレーを撒き散らした。クッションやシーツ、カーテンに至るまで鼻を擦り付けて匂いを嗅いで入念にチェックする。
浮気の証拠湮滅してるみたい。不倫の時点で純愛でも何でもないのに。
よし、完璧。
匂いも見た目も違和感なし。夕飯の準備もできてる。
そわそわしてる自分に少しホッとしながら主任が来るのを待った。
『ピンポーン』
軽やかなチャイムの音。
「はーい」
意気揚々と返事をしてドアを開けた。当然、主任が来てくれたものだと思って…
「よう」
でも立っていたのはスーツ姿の主任ではなく作業着姿の小松。右手を上げて軽く挨拶をして、
「おじゃましまーす」
何の了解もなしにズカズカと上がり込んで来た。
「ちょっと!何!?」
靴を脱ぐ小松を通すまいと、両腕を目一杯広げて立ちはだかった。
「今日は入れてくれないんだ」
「今日はって…」
「この前はあっさり入れてくれたのに」
「―っ」
こいつ、性格悪っ。
散々何も無かったみたいに接しておいて腹ん中でそんな事考えて―、ていうかやっぱりあたしが連れ込んだのか…
「お、前来た時より片付いてる」
仁王立ちするあたしの向こう側をひょいと覗き込む。
「帰ってよ!今からしゅ―」
言い掛けて口を噤んだ。
危な…、こいつに主任の事がバレたら大変だ。
「誰か来るの?」
「そう!友、友達来るの!だから」
「友達なら俺がいてもいいじゃん」
「え、あ!?」
小松はあたしの横を簡単にすり抜けるとあっさり部屋の中へ入ってしまった。
「小松!」
追いかけて背中を掴む。
「帰って!」
「やだね」
「ふざけないで!!」
振り向きもしない態度に腹が立って拳で後ろ姿を何度も叩いた。
早く帰ってよ。もうすぐ主任が来るんだから!せっかく部屋中綺麗にしたのに、匂いも消したのに!
「お前が嘘つくからだろ」
「は!?」
「何が友達だよ、見え透いた嘘つきやがって」
「小松…?」
ようやく振り向いた小松はあたしとベッドを交互に見て、ふん、と鼻で笑った。
「俺と寝たベッドで今日は主任と寝るんだ」
「な…っ」
「軽い女」
掃き捨てる様な言い方に寒気がした。
こいつ、何で知って―…
「誰にもバレてないとでも思ってた?」
「…出てって」
言い返す事もできず、弱く呟く。
「やだ」
「じゃあ、あたしが出てく」
二週間ずっと目で追っていたこの男が急に怖くなった。もう一秒も一緒にいたくないくらいに。
回れ右をして玄関へ続く短い直線を進んだ時、
『ピンポーン』
チャイムが鳴った。
主任だ!
急いでドアノブに手を伸ばした。が、その手は虚しく空を切る。


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