『LIFE LINE』前編-1
いつもと同じようにいつもと同じ時間。
僕は定時の電車に乗って学校へ向かう。
空いた席に座る。
窓の外を見やると雑多な街に似合わないほど澄んだ青空が広がっていた。
駅に着くまでの間、僕は静かに目を閉じて席にもたれた。
・・・彼女のことを、思い出していた。
あの日もちょうど、こんな風に晴れた夏の日だったような気がする。
今でも鮮明に思い出すことができるのは、僕がまだ彼女のことを忘れられないからだろうか。
いくら考えても、きっと貴方は「馬鹿ね」っていつもみたいに笑ってすませてしまうけど。
そんな時、決まって僕は言い返せなかった。
なにも言えないまま、黙って苦笑いをこぼしていた。だからなのかな。僕は今だに後悔している。
もし彼女に好きだって伝えていたら、今、この隣に貴方が座っているのだろうか。
・・・再び僕は目を開ける。車内のアナウンスが、ホームに列車が着いたことを告げていた。
ふと、横を見る。
期待していた訳ではないけど目を開けると思わず隣を見てしまう。
やはりそこには、誰もいなかった。
――当たり前か、
僕は重い腰を上げて電車から降りた。
構内に降り立ったのは、一人だけだった。
第一部
父さんから手紙が来た。短い手紙だ。僕は重たい瞼を擦りながら、雑に封を切った。 そこには父さんが旅先で撮った写真が数点と、本当に短い文章で自分の近況が書かれていた。僕は適当にそれを読み飛ばす。手紙の最後に書かれた言葉に思わず手がとまった。
“・・・近々家に帰ろうと思う。お前のことだから心配ないが、進路のことだ。母さんと明菜によろしく伝えておいてくれ”
僕は苦虫を噛み潰すような思いで手紙をしまった。父さんの事だ、きっとまた突然帰ってきてすぐに行ってしまうんだ。
あの人は、そういう人なんだ。
家庭を顧みない父親の典型的なタイプで、カメラマンという仕事柄のせいか、年中海外を飛び回っている。
そんな父親に、僕の進路をあれこれ言う資格はないと思った。
今朝のホームは閑散としていて静かなものだった。
駅にいる人もまばらで普段より空いている。僕は幸運にもいつもは座れない席に腰を下ろすことができた。
夏休みだからかもしれない。がらんとした車内には疲れ切った顔のサラリーマンが数人、日に焼けた小学生が二人いるだけで学生の姿はなかった。
僕は小さくあくびをすると時計を見た。
八時二十分。まだ時間はある。
一眠りでもしようか、と考えていた矢先、電車のドアが開いて誰かが入ってきた。
何気なく視線を上げる。 新しい客は若い女性だった。夏場なのに、少しも肌を見せない厚着に、ショートカットの髪が印象的な女性は辺りを見回すとなぜか僕の向かいに座った。
僕は思わずまじまじと彼女の方を見てしまった。