『LIFE LINE』前編-9
「いや。だからハニワ屋かと…」
まさか、と先生は言って苦笑いした。
「ここはただの骨董屋さん。ほら、よく見てみると焼き物や油絵なんかもあるでしょ?」
改めて店内を眺める。
言われてみれば確かに棚ごとに違った種類の商品が置かれていて、僕なんかでもその文化の違いははっきりと感じとることができる。
壁に立てかけてある西洋風な時計。
白い毛皮を被った奇妙なお面。
一見すると、一体何を扱っているのか全く理解できなかった。
「さっき言った大学の教授なんだけど、こちらの主人と古い知り合いでね。
あの埴輪はそこから流れてきたものなの」
「あれ、売れるんですか?」
「さあ、それはどうかしら?こんな店に置いてあるくらいだから、大した価値はないわね」
吐き捨てるような言い方に反応したのか、不意に、店の奥から人影が出てきた。
暗がりから現れた初老の男性はこちらを向いてにっこりと笑うと、僕に声をかけた。
「いらっしゃい。よくきたね」
穏やかな口調に、僕も小さく会釈を返す。
意外なことに、普通な人で拍子抜けだった。
正直、あまりにも怪しい店構えに、どんな変人が現れるのだろうと不安でたまらなかった。
「まあ、こんな店だけどゆっくりしてきなさい」
と言った後、男性は扉の前にいた先生を見やった。どうやら最後に言い放った先生の言葉を、しっかりと聞いていたらしい。
「お久しぶりです、ご主人」
丁寧にお辞儀しながら、先生は不敵に笑った。
嫌な笑顔だった。
「そんな所に立ってないで、君も入ってきなさい」
ご主人がそう呼びかけても、動く気配はない。
相変わらず失礼だったが、この人は慣れているのか先生の不遜な態度にも動じなかった。
「彼は君の教え子かい?」
「まあ、一応そうですね。成瀬 圭一君です」
と先生が僕を見てそう紹介した。
「圭一君は、どこの高校かな?」
「池田高校です。三年生になります」
「じゃあ、来年は受験か。今の時期は勉強ばかりで大変じゃないの?」
「いえ、それ程でもないです」
本当は遊ぶ暇も無い程大変だったが、そう謙遜しておいた。
先生に余裕がないところを見せたくなかったっていうのもあるけど、正直に話すのも恥ずかしいものがあった。