『LIFE LINE』前編-8
「埴輪よ」
やっぱりそうだった…。
「いや、ハニワと言われましても…」
軒先に所狭しと置かれた物体は、道路の部分にまではみ出ていて…。
正直、邪魔だった。
「なぜ、この暑い中、わざわざこんな町外れの店に連れてきてハニワなのか?って顔してるわね」
「全くその通りです」
有無を言わさずにここまで連れて来たのだから、納得のいく説明が欲しかった。
こんなの、先生じゃなけりゃ許せない暴挙だ。
「成瀬くんの志望は確か、清新大だったよね?」
「え?はい」
「ここにある調土品は、全部そこの教授が掘った物なのよ」
先生はもう一度、その古いハニワ群を見て言った。
「清新大は考古学とか、歴史研究とか、そっち方面の分野はかなり盛んにやってるから」
知らなかったの?
そんな顔をして聞いてきた先生に、僕は呆然と固まったままだった。
「君は、自分が行く大学の偏差値しか見てなかったみたいね」
「……うっ」
あまりにも的を得ていて、言い返す言葉がなかった。
まるで、全てを見透かされたように。無性に恥ずかしくなって、僕は下を向いたまま俯いてしまった。
そう、最初から知る術はあったのだ。
学校の資料室、図書館、インターネットなんかでも今なら簡単にできる。
他の人はみんなやっていることだった。焦りさえなかった。
僕にとって大事なのは、『進路』ではなく『合格』なのだから。
机にしがみついていれば何とかなることだと思っていた。
…ただそれで、本当によかったのだろうか?
自分のやってきたことに疑問を持ち始めたのは、思えばこの頃からだった。
「これは、なんて言うハニワなんですか?」
薄暗い室内灯に埃がかった店の中。
パイプ作りの棚に並べられていた黒い置物を指して、僕は聞いた。
「それは埴輪じゃなくて、普通の彫像よ」
汚い店内に入るのは嫌だと言って、外で待っていた先生が答えた。
「……ふぅん。
でも、アレ。ここって、そういう店じゃないんですか?」
「そういう店って、どういうお店かしら」
意地悪い顔をして聞き返してくる。