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『LIFE LINE』
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『LIFE LINE』前編-7

―――カリカリカリ………

昼下がりの図書館に、再び鉛筆の音が戻った。 相変わらず人気のない館内だが、その方が都合がいい。
来週の模試に向け徹底的に自分を追い詰める必要がある。
それまでは遊んでる暇などなかった。

「よし、やるか」

僕は気合いを入れ直して、新しい参考書に手を伸ばした。

……はずだった。

「あれ?」

おかしい。
何の感触もない。
掴もうとした右手が、空を切った。

「参考書が、ない……」

机に積まれていた本がごっそり消えている。
代わりだと言わんばかりに現れた先生が、あっさりと僕に告げた。

「全部片付けといたから。ほら、行きましょう」



真夏日が照りつける歩道に沿って、僕らは歩き始めた。
ジワジワと蝉の鳴く音が耳障りで、より一層暑く感じる。
今年は例年にも増して、過ごしにくい季節になりそうだった。

「………」

そんなことはお構いなしに先生はさっさと歩く。
この時期にあろうことか長袖の薄いツーピースを着ている。しかも、黒い。

「あの、先生」

「何、成瀬くん?」

足を止めずに振り向く。汗一つかいていなかった。

「なんでこんな日にそんな格好してるんですか?」

「……え?」

「見るからに暑苦しいんですけど」

今朝の天気予報によると、午前中の最高気温は摂氏38度。
正直、見ちゃいられなかった。

「別に、君が気にすることでもないわ」

「いや、気になりますよ。隣で歩いてる身としては」

「大丈夫。暑いのは好きなの」

先生はそう言って、スッと前にでる。まるで、この話はもうお終いだと。
何となく、触れてほしくない部分のような気がして、僕も黙った。

街中を歩くこと30分。目的の場所は、海道沿いに面した静かな通りにあった。長いことこの町に住んでるけど、一回もこんな所まで来たことなんかない。
それくらい、へんぴな場所に建っていた。

だが、それ以上に変だったのは、その店の容貌だ。

「あの、先生」

廃れた建物の前。露天に晒された異様な物体を指した。

「何、成瀬くん?」

「…これ、何なんですか」

一同に並べられていたそれ等は、一つ一つに特徴があって違う形をしていた。
共通点はある。
茶色くて丸っこいシルエットには、網目模様のなんだか複雑な文字らしき形状が、あちこちに散りばめられていた。
そういえば昔、教科書に似たようなものが載っていた気がする。

…僕はこれを、何となく知っている。


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