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『LIFE LINE』
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『LIFE LINE』前編-5

「そんなことないわよ。
お父さんだって忙しい合間を縫って来てくれるんだから・・・」

そんなに仕事が大事なら別に帰ってこなくてもいい、と僕は思った。
家にいても、顔を突き合わせれば結局は言い争いになってしまうんだから。

「それに私、お父さんの撮る写真好きだな」

「写真?」

「うん。見たことない? アラスカのね、フェアバンクスって街があって、そこのオーロラがスゴく綺麗なの。」

明菜は小首を傾けて潤んだ目をしている。
その写真なら、僕も知っている。
半年前の手紙に同封されていたものだが、明菜には見せていなかった。
たぶん雑誌か父の個展にでも行ってきたのだろう。
昔から妹は父さんの撮る写真に心酔している。
僕にはそれが理解できなかった。


―――カリカリカリ・・・

昼下がりの図書館に鉛筆の音だけが響いていく。 平日のためか館内のなかはがらんとしていて、あまり人の気配はない。 時々感じる視線は、たぶんここで働いている人のものだろう。
周りに目もくれず僕はただペンを走らせることに集中した。

「ふぅぅ・・・」

英単語と漢文を片付けたところで一息をつく。
とは言っても、目標の課題までまだ倍くらい残っている事を考えると、休んでる暇などなかった。
目の前に積まれた教科書の山をうんざりと見やると、腹の底から嫌な笑いが込み上げてくる。
模試が近いせいだろう、僕はかなりイライラしていた。
あの日言われた、先生の言葉が頭から離れない。

――何の為に勉強してるのか・・・か。

答えは見出だせないまま、僕は詰め込めるだけ詰め込んで受験に向かっていた。


「―――こんにちは」

声に気付いて顔を上げると、机のすぐ向かいに先生が立っていた。
僕はギョッとしてペンを落としそうになるのをかろうじて防いだ。
この人はどうして、いつもいきなり現われるのだろうか。
僕が会釈をすると先生はそのまま向かいの席に座った。

「また勉強?」

「まぁ、そうです」

仰陽のない調子で返すと、先生は教材の山に隠れた僕を覗き込むようにして言った。

「随分と難しい本で勉強してるのね。
成瀬くん、志望校はどこ?」

地元の国公立の名前を挙げるとさすがに驚いたのか意外そうにへえ、と頷いた。

「その成績で?」

「・・・ほっといてくださいよ」

あけすけと言ってくれるものだ、と僕は思った。


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