『LIFE LINE』前編-2
「・・・?」
気付くと小首を傾げ、こちらを見返してる女性の目と合った。
僕は慌てて窓のほうに顔を向けた。あまりにじっと見すぎたのかもしれない。
そんな僕をしばらく不思議そうに見ていた彼女は目を閉じると、寝息をたてはじめた。
どうやら変に戸惑っていたのは僕だけだったようだ。なんだか自分が馬鹿馬鹿しい。僕は一息ついてから彼女に声を掛けた。
「あの・・・」
目を開けた彼女は今初めて僕の存在に気付いたみたいに瞬きをした。
「どちらまで行かれるんですか?」
「浜崎駅までですけど・・・」
訝しげに女性が答えた。偶然にも、僕が降りる駅と一緒だった。
「俺もです」
ぱちくりと女性が少し驚いて僕を見た。
正確に言うと、僕の着ていた制服を見ていた。
「君、池田高校の人?」
頷いてみせると女性はふーん、と無表情のまま相槌を打った。
関心を持っているのか、興味がないのかよく分からない反応だった。
「ご存じなんですか?」
「私もそこに用があるの」
「それじゃあ・・・」
一緒に行きませんか?という台詞が口をついて出てしまうのを、僕はやっとのことで抑えた。
これじゃまるで軽いナンパみたいだ。
さすがにそこまで積極的にはなれなかった。
「それじゃ、君に案内してもらおうかな」
「えっ!?」
僕は驚いて素っ頓狂な声をあげてしまった。
まさか彼女から先にそんな言葉が出るなんて思わなかった。
「いいよね、別に」
僕は何度も頷いた。今度こそ、本当に馬鹿みたいに。彼女の無表情だった顔が、ほんの少しだけ柔らかくなった気がした。
僕達は駅を下りると、真っすぐに学校へと向かった。駅前にある並木道に沿って歩くと、目的の場所はすぐ見えてきた。
迷うような地区ではないのだが、後ろを歩く彼女はどうやらこの辺りに来るのは初めてらしい。
興味深そうに流れる景色を眺めていた。
校門に差し掛かったところで、彼女が僕を呼び止めた。振り返ると
「ここでいいわ。どうもありがとう」
と一礼して、さっさと前に立って歩きだした。
「あの」
去りゆく彼女におずおずと声をかけた。
振り向いた顔は相変わらず憮然としている。
僕はなにを言おうとしていたのか忘れてしまった。
「なに?」
「いえ、その、なんでもないです・・・」
結局、僕はなにが言いたかったのだろう。聞きたいことはたくさんあったのに、彼女の名前すら知ることができなかった。分かったのは僕の高校に用事があったというくらいだ。
彼女の消えていった方を名残惜しく見守ると、僕は昇降口から学校に入った。