『LIFE LINE』前編-15
「君、そんなこと気にしてる訳?別にいいのよ、講師なんて言ってもバイトみたいなものだから」
先生はシレッと言って、窓の外を眺めた。
それはそれで問題のような気がしたけど。
結局、僕は放課後に先生の家にお邪魔することにした。
講習が終わり、時計を見るとまだ1時前。
日曜日は平日の授業より少し早く終わる。
だからといって、僕のやることに変わりはない。
校門の前で先生を待って、それから家に向かうことにした。
先生の住んでいる町は、僕の家と学校の間を繋ぐ、ちょうど中間にある。
途中の駅から降りて、そこからバスに乗る。
小一時間くらい揺られていると、隣に座っていた先生が立ち上がった。
「ここで降りましょう」
冷房の効いた車内から出ると、蒸されたコンクリの熱気に包まれる。
その先には、何の変哲もない町並みが広がっていた。
公道沿いに歩きながら、前にいた先生に訊ねる。
「ずっとこの辺に住んでたんですか?」
「ううん。そういう訳じゃないけど、今回の仕事がたまたまこの近くだったから。前に一度、借りたアパートに戻ってきたのよ」
地元の人間じゃないのか。
先生はそう言って、この町に来る経緯を話してくれた。
大学を卒業後、各地を転々としながら塾講師やアルバイトを続けていて、ウチの高校に来たのもその一環だったらしい。
どうしてそんな生活をしているのか、と聞いたら、
「ずっとその場に留まってる、っていうのが嫌いなのよ。常に新しい刺激が欲しいの」
要は、楽をして定職に就きたくないだけらしい。
基本的には、ダメ人間なんだろう。
親は何も言わないんだろうか?
そうして、しばらく先生の後に付いて歩くと、段々と道が狭くなって、登り坂が多くなってきた。
両サイドの木々が揺れる坂道を、少し急かすように踏み出す。
時折、自転車に乗った学生が小脇に通り過ぎていった。
右手の林の向こう、小さくなった町が一望できるくらいに登った所で、先生が振り返った。
「ここよ、ここが私の住んでるアパート」
と言って、指を差したのは、二階建ての築30年といった感じの木造住宅だった。
ところどころ塗装がはがれているのか、全体的に茶色く見える。
ぶっちゃけて言えば、田舎の小学校みたいな廃れた校舎の雰囲気に似ていた。