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『LIFE LINE』
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『LIFE LINE』前編-14

日曜日。
普通だったら休日の予定だが、今は夏休み。
講習は毎日入っているから、休みなど関係なかった。
僕は空いている席を探して適当な場所に座る。
駅に着くまでの間、ボケーッとしているのも何なので参考書でも読もうと思ったのだが。
鞄の中に手を伸ばすと、そこにはギッシリと専門誌が入っていた。
ハニワ屋のやつが。

しょうがなく手に取ってパラパラと読んでいると、向かい側の席から声がかかった。

「成瀬君、おはよう」

先生だった。
黒い服だったのですぐわかる。
僕は小さくお辞儀を返して、ページをめくった。
意外に面白かったのだ、この雑誌。

「どうしたの?それ」

不思議な顔をして、覗き見してくる。
中身はちょうど、ついこないだまで行われていたらしい調査の議事録だった。
遺跡の名前が載っていたけど、聞いたこともない。

「朝から、よくそんなもの熱心に読むわね。もしかして、ご主人に感化された?」

誰のせいだよ。僕は文句を言いたいのを何とかこらえて視線を落とした。
原稿の末尾に編集者の紹介がある。
僕が志望する、清新大の教授だった。この前の先生の話に出てきた人だろうか。
どうやらこの人物、その手の世界では相当な有名人らしく、プロフィールには自らの著書を何冊か出しているとまで書いてある。
何だか、ハニワ屋にも置いてありそうなタイトルだった。

「そういえば、成瀬くん、君この前の試験悪かったんだって?」

そう訊かれて、僕は先週行った模擬テストの結果を思い出した。受講者のみを対象とした小規模な試験だ。
だが、これから本格的な受験シーズンに向けて現在の実力を測る、大事なテストだった。

僕はその大事なテストで、コケたのだ。

「まあ、自業自得です。あまり時間もなかったし」

僕は本をパタリと閉じて、作った笑いを向けた。

「…それなんだけどね」

先生は一度、咳払いしてから、

「私にも少し、責任があると思って。この間も無理して付き合ってもらったしね。それが原因で、落ちたなんて言われたらこっちとしても目覚めが悪いのよ」

と素直に頭を下げて謝ってきた。
言い方は少しアレだが、こうやって自分の非を認める先生は初めてだったので、正直戸惑ってしまう。

「それでね。成瀬くん、今日、ウチに来る?」

「はい?」

「勉強を見てあげようか、って言ってるの。お詫びもかねてね」

突然の申し出だった。
確かに僕にとっては悪くない話だ。断る理由はない。
だが……、

「いいんですか?僕、一応生徒なんですけど」

一般的に見れば、体面を気にする部分ではある。
どんなに正当な理由があったにしても、いきなり教師の家に押しかけるのははばかる所だ。
でもこの人は、僕が思う以上にクールで、斜に構えた図太い神経の持ち主らしく、あっけらかんと言ってしまうのが、スゴいと思った。


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