『LIFE LINE』前編-12
「そう言えば、さ。圭一って最近汐見先生と仲良いよね?」
「は?何だよ、いきなり」
再びペンを取った僕に、マコは椅子に座った態勢のまま近づいてくる。
先生のことを言われて内心、ビクついていた。
「いや、この頃よく2人で話してるじゃない。放課後も一緒にいるみたいだし」
あらぬ誤解だった。
少なくとも、当方は僕のことなど何とも思っていないに決まっているからだ。
「違うよ」
僕は慌てて首を振った。
「解らない問題が多いから、聞きにいってるんだ。ほら、あの先生ってどんどん授業進めるだろ?」
「あぁ、たしかに。そういう所はあるかもね」
マコは納得したように何度も頷いている。
単純だった。右と言われれば、何の迷いもなく右に行く奴である。
「それなら、いいんだけど…」
と言って、マコは口を噤んだ。
含みを持った言い方に、僕は反応した。
「どういうことだ?」
「見たのよ。この間、先生と知らない男が一緒に歩いてる所を…」
あの先生が?
僕は一瞬、まさかと思った。
あんな人付き合いが苦手そうな人に限って、そんなはずはないと。
だが、考えてみれば自然なことかもしれない。先生だって容姿だけなら、マコに負けず劣らず男受けは悪くないはずだから。
だからその時は、あまり深く考えなかった。
どうせハニワ屋の主人か誰かだろうと、タカをくくっていたのだ。
でも、真実は簡単に人を裏切るんだってことを、後に僕は知ることになった。
帰り道、明菜と一緒になり珍しく2人で下校することになった。
僕は大体、図書館や本屋に寄り道する事が多い。明菜も最近は部活が忙しいらしく、2人揃って帰るなんてことはほとんどなかった。
今日だってたまたま、駅前のスイーツの窓ガラスにかじり付いていたコイツを偶然見つけてその場で捕まえたのだ。
電車に乗り、目的の駅に向かってる途中、明菜が急に降りようと言い出した。
せっかくだから、夕飯のおかずを買っていきたいということだった。
「それなら、近場のスーパーに寄ればいいのに…」
どうせ今夜は僕が作る番なのだ。できれば簡単に済ませてしまいたかった。
だが、どうやら明菜はここ数日続いた出来合わせの惣菜がかなり気にくわないらしい。
面倒くさそうな顔を向けたが、鋭い目でこちらを睨み返された。
怒らせると非常に厄介な目つきだ。
仕方なく、僕は買い物に付き合ってやることにした。